第92話
「祥太ー!ヘルプ!!」
扉が開いたと同時に駆け込んできたのは、コンテストの運営を務める正彦。いつものオーバーリアクションに笑っちゃうけど、その顔が真っ青だったから「どーした?」と聞けば、身振り手振りで教えてくれた。
「カップルコンテスト!出てくんない!?」
「……はい?」
俺が出場するミスターコンの他に、ミスコンとカップルコンテストも同時に開催される。そのカップルコンテストの出場者が1組体調不良で欠席するらしい。その穴埋めに、俺?
「カップルでしょ?俺、彼女いないけど?」
「そこは!その顔の広さでどうにか!偽の彼女でもいいから!」
……そこまでして人数集めなきゃいけないのか。大変だな。
でも俺、いーこと考えちゃった。
「……わかった」
笑顔で了承すると、ななさんの腕を掴む。
「うえっ!?」
「ちょ、祥太!?」
めちゃくちゃ険しい顔をしてる晴。お、勘付いてるなー。
「相手はこの人ね」
そう告げると、ななさんはテンパってる。正彦は「おっけー!」と言って慌ただしく去っていった。
「……ごめんね?人助けだと思って協力してよ」
ななさんと晴にそう言うと、優しい2人は拒否しなかった。あの正彦の様子を見て断れないんだろーな。
……あー、やる気出てきたわ。
「いい?ななさん」
背の低いななさんの顔を覗き込めば、困ったように笑って小さく頷いた。
「晴、ななさん借りるよ」
納得してない顔だったけど、そんなの御構い無し。
部屋を出るとななさんの手を引いて、カップルコンテストの控え室へと向かった。
拳を握って、怒りを抑える晴は……今は見ないでおくよ。
「ななさーん、着れた?」
カップルコンテストでは、結婚式をイメージしてウェディングドレスとタキシードで人前に出る。急遽決まった参加だったけど、棄権したカップルと俺たちはどちらも似たような体型だったようで用意されていた衣装のサイズはぴったりだった。
晴は正彦に追い出されて、今この部屋にはいない。
試着スペースのカーテンがシャッと開いて、おずおずと出てきたななさん。
真っ白な肌。華奢な体。
……やば。想像以上に可愛い。
言葉も出なくてぼーっとしていたら、「祥太くん?」と声をかけられた。
「……あ、なに?」
「背中の、チャック……お願いしてもいい?」
……ばかじゃん。
ほんと、この人なんなの?
無防備に背中を向けて、髪を寄せる。晒されたうなじに肩甲骨。ごめん、晴。俺やばいかも。顔が熱くてカーッとする。
震える手でファスナーを上げる。指先が、肌に触れて。
もっと触れたい、って思っちゃう。
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