第87話


「はい、ホットミルク」

 ソファーにちょこんと座る真央に、彼の好きな飲み物を手渡して、私も隣へ腰掛ける。


「……あの、晴さん」

 真央が一口ホットミルクを飲むと、カーペットに座る晴に声をかけた。

「なんや?」

 私じゃなくて、なんで晴?ちょっとお姉ちゃんは寂しい。


「──年上の女の人に、好きだって分かってもらうにはどうしたらいいと思います?」


 ……お姉ちゃん、もっと寂しい。


「……好きな人が、おるん?」

「まおって年上が好きだったの?」

 男同士の話に割り込む気はなかったんだけど、思わず聞いてしまった。すると晴は少し視線を落として

「……ちゃうやろ」

 と低い声で言った。

「……好きになった人がたまたま年上やった。それだけや」

 強い瞳の奥で、少しの影が過る。きっと晴は、自分に重ねている。


「初めから知っとって好きになったわけやし、俺たちにとっちゃ気にも留めん些細なことやけど。女の人の方からしたら、歳っちゅーのはなかなかデカい問題らしいで」

 ……耳が、痛い。真央に伝えたその言葉は、私にも突き刺さってきた。

「……そう、なんですか……」

 また眉を下げて、困ったように笑う真央。……そんな悲しい顔するほど、その子のことが大好きなんだね。



「……いとちゃんは、いつも好きって言ってくれます」

 ぽつりと話し出した真央に、私と晴は顔を見合わせた。

「は?」


「『ちゅーしていい?』って聞かれて『いいよ』って言ったら顔を真っ赤にします」

「……オイ」


「僕のこと、『かわいい!』っていつも抱きしめてくれます」

「ちょい待てや!!」


 ほとんど白目で聞いていた私と、我慢できずに制止した晴。真央……私の可愛い弟よ……。随分と大人になって……。


「なんでそんな脈アリアリの女に告らんのや!?」

「脈アリ……なんですか?」

 初耳だ、と言わんばかりにパチパチと瞬きをする。純粋で可愛いなあ……じゃなくて!

「弟みたいにしか、見られてないのかと……」

「あー、まあそれもあるかもしれんけど」

 チラッと嫌味のように私を見遣った。身に覚えがありすぎる。

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