第80話
「……ななちゃん?おはよ」
柔らかく揺れ動かされて、目を覚ます。カーテンから漏れ出す光が眩しかった。
私の顔を覗き込んだ晴の顔は、最初に見た中学生の顔の面影を残すものの、断然カッコよくて。
「……晴?今何歳?チャライケ大学生?」
「なに!?この前の仕返しか!?」
寝起きにはうるさいくらいの声も、今日は安心する。
「……晴。好きになってくれて、ありがとう」
「えー!?なんやの!?今日は甘えたなんか!?」
今日くらいは、少しだけ、素直になろう。
君がくれた、私が想像していたよりもずっと大きな愛を少しでも返せるように。
歓喜する晴が私をぎゅうっと強く抱きしめたのにも、今日は強めに抱きしめ返した。
ベッドから出て、二人で朝食をとる。晴がポストから持ってきてくれた新聞を手に取ると、一通の手紙がひらりと落ちた。拾い上げて裏返すと差出人を見る。そこに書かれていたのは夢で散々使わせてもらったリエちゃんの名前と、合コンで知り合ったという彼氏さんの名前。
……そういえば、超スピード婚したんだっけ。
「何ソレ?結婚式の招待状?」
「うん。職場の後輩のね」
あんな夢を見た後、このタイミングだからちょっと笑ってしまう。
「あんたが私の婚活を妨害した合コンの時、色目使った相手」
「いや、言い方!!」
ひょいと私の手から招待状を取り上げた。
「……ミシマ、リエ?なんか聞いたことあるな」
「……え?」
どきりと心臓が脈打つ。
「たしか、高校んときのクラスメイトにそんな子がおったような……」
「!!!!?」
偶然だ、偶然。そんなに珍しい名前じゃない。あれは夢だもの。……それでも、あの照れたような表情が現実だったなら。そう考えると、やっぱり柄じゃないけど嫉妬した。
「なーんや地味で目立たん子やったけどな」
「……なのに名前覚えてるんだ。チャラ」
「ななちゃんッ!?なんかえらいあたり強ぉない!?」
「……でもホンマ、なんでやろ?」
晴との学生ライフは楽しかったよ。だけど、やっぱり私は今のままが一番好きだ。
『──俺、先生がおらんかったら、三島さんがエエなって思うで!』
晴の今よりも少し高めの声が、柔らかく耳に残っている。
ソレを思い出して、またチクリと胸が痛んだ。
だけど、
「ななちゃん、今日もかわええなあ」
そう言って眩しいくらいの笑顔を見ていると、モヤモヤした気持ちが薄らいでいく。
「……晴はそうやって笑ってるのがいちばんいいよ」
「……ほな、ななちゃんの前ではずっと笑っとく」
こんな顔、見せるのは私にだけでいいよ。
「無理に笑えばいいってもんじゃないんだけど」
「ななちゃんがこの腕の中におるうちは、幸せやからずっと笑っとけるわ」
晴を幸せにするのも、私だけでいいよ。
「だーいすきやで」
「……ん。私も」
「……やっぱり今日は甘々DAYやん」
……絶対に、君には言ってやらないけどね。
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