第79話


「次会うときは、俺の彼女か嫁さん紹介したるわ!」

「うん、せいぜい頑張って」

「なんかヒドない!?」

 結果は誰よりも、よーく知ってるから。

 まんまと落ちちゃうのかーと自分の押しの弱さに呆れる。


「……卒業、おめでとう」

 中学の時も、高校合格したあと、すぐに家庭教師は辞めちゃったから言えなかった。姿形は違うけど、言っておくよ。

「……ありがとうな」

 無邪気に笑う晴は、年相応だった。私へ向ける顔は数えきれないくらいあるんだけど。やっぱり、同じ年の友達へと向ける顔はどこか違っている。


「そろそろ、行こかー」

 私に背を向けて、歩きだした。

 暖かな日の光が、君を照らす。これから歩んでいく君の未来は、幸せなものかな?輝いているかな?


「あ!」

 何かを思い出したように、振り返る。

「……俺、せんせぇがおらんかったら、三島さんがエエなって思うで!」

「……え」

 照れたように頬をかく仕草。なんだか泣いてしまいそうなのは、“卒業”というシチュエーションのせいかな。

 確かにその“せんせぇ”も“三島さん”も私のはずなのに、なんだか切なくて、苦しくて……少し悔しかった。


「じゃあな!」

 手を振った晴の──トリップしてからは見ることがなかった、幸せそうな、太陽みたいな笑顔がキラキラと輝く。今まで何度だって見てきたはずなのに、こんなにも新鮮なのは。きっと、私以外の前で見せることがなかったから。



「愛されてるんだなあ……」

 ポツリと呟いたのが、“せんせぇ”である私だったのか、“三島さん”だったのかは分からない。

 遠ざかっていくその背中は今より小さくて、今以上に華奢だけど。若さゆえの、夢とか期待とか、そんな甘酸っぱいものが詰まっている気がした。

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