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第81話
「ななちゃんっ!デートしよーや!」
「……デート?」
休日の朝。晴が起きたと同時にそう提案してきた。期待を込めた大きな目で覗き込んでくる。そういえば、まともに"デート"なんてしたことなかったかも、なんて考えて。
「どこ行くの?」
「んなもん、決まっとるやろ」
にやりと口角を上げた晴に嫌な予感を抱く。
「さ、準備や準備」
答えを返す前に、晴は私の背中をぐいぐい押して、急げとばかりに洗面所へと押し込んだ。
「絶対いやだー!!」
「駄々こねんと、はよ行くで〜」
ジタバタと暴れる私を引き摺りながら、ルンルンで歩く晴。目線の先にあるのは……夢の国。
「カップルやったら定番やろ?」と言って強引に連れてこられた。目を輝かせる目の前の男の子は確かに可愛いんだけど。
「……私もうアラサーなんだけど」
「ソレ関係ある?」
「大アリだわ!こんなメルヘンなとこであんたみたいなイケメンとアラサー地味女が並ぶの恥ずかしいもん!」
そう捲したてると、きょとんとする。
「だーいじょーぶやって!夢の国なんやから、みぃんなスルーしてくれるわあ」
それから、へにゃ、と笑った。
「……そこはもっと彼女を褒めるという選択肢はなかったの?」
別にいいけど。なんか本人にも暗に認められたような感じがして。
「……」
「……帰る」
無言は肯定。図星なのか、黙り込むからムッとして踵を返す。
「ゴメンってぇ!嘘や!」
焦る晴の声が聞こえてきた。腕を掴まれて彼に向き直ると、少し困ったような顔をしていた。
「俺には恥ずかしい意味がわからんのやけど?」
首を傾げる、確信犯。
「……こんな年の離れた地味女が隣にいて、恥ずかしくないの?」
本当に恥ずかしいなら、きっと私なんかと付き合ってない。そんなのは分かり切っているけど、不安になってしまうのは女のサガというか、女子の面倒なところで。
少し俯いて、目線だけでチラリと晴を見た。
「アホか。俺が選んだ女やで?俺にとってななちゃんは世界でいちばん可愛く見えとんやから、恥ずかしいわけないやん」
きっぱりと言い切る晴。それはきっと、私が言ってほしかった答えなんだと思う。
それでも、これはこれで恥ずかしくて死にそうだわ。
「……あっそ」
ふい、と顔を逸らす。顔が熱を持って仕方ない。
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