第67話


 俺の一言を聞いたハルは、見開いとった目を細めてニッと笑う。


「どんだけいい男なわけ?」

 ……アホ、オマエにだけは言われたくないわ。

 俺はオマエみたいにはなれんっちゅうのに。

「オマエの為やない」

 俺が“ええ男”でおれるんやとしたら、それはいつだってななちゃんのためやんなあ。


 ニコニコ笑っとるコイツは、ホンマに後数年の命なんか疑わしい。一番しんどい思いしとるんは、オマエやろうに。


「ねー!晴って呼んでいい?」

 何でそんな無邪気に笑えんねん。強がっとるようには見えんのに。

「ええけど……自分もハルやんか」

「あ!忘れてた!」

「……マジでアホすぎんか」

 ……天然、やから?

 そうちゃんが言うてた意味が、今ならよく分かる。


「ほな、俺はハル2号って呼ぶわ」

「え!なにそれカッケー!!ロボットみたいじゃん!」

「……マジでアホなんやな」

「2回目!?」


 あーホンマに、アンタには敵わんな。いつの間にか、この男のペースや。それでも、不快に思わんのやから……それがコイツの最大の魅力なんとちゃうかな。



「……はよ、ななちゃんとこ行けや。オマエの秘密を伝えても、あの子は絶対離れたりせんから安心せぇ」

 壁に凭れて、空を見上げる。

「なんで分かんの」

「よーく知っとるからな。大人んなっても、あの子はあのまんまやで」


 綺麗な瞳、無邪気な笑顔。強いかと思えばか弱い……あの人を思い浮かべる。

 拗ねたような顔、呆れた顔、あどけない寝顔。真剣に仕事する姿も、泣きじゃくる姿も。俺はこの先、見ることはない。


「そう、なんだ」

「俺史上、最高にええ女やからな」


 ──もう、俺が守らんくてもええな?


「じゃあ俺、最高に幸せもんじゃん」


 もう手を離すよ。


「そーやで。やから途中でほっぽり出して死ぬなんて、罰当たりもええとこや」


 俺の隣で、ハルも壁に背を預ける。

「……そうだな〜」

 口調は軽かったけど、しっかりとした同意の言葉。

 ああ、終わりや。俺の恋も。


「……せやから。一生感謝して生きろや」

「……うん」


 ──オマエとは、ただの友達になってみたかったわ。


「俺、最高にいい彼女と、最高にいい友達もったなーって、神様にお礼言っとかなきゃ」

「……!」

 思わず、噴き出した。

 ああ、そうか。コイツ、そーゆうヤツやな。


「ああ、誇りに思えよ」



 ──全部、オマエが持っていけや。

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