第68話


 ──桜が、うっとおしいくらいに舞う。


 あれから何ヶ月が経ったか分からん。

 けど確実に分かるんは、アイツとななちゃんが仲直りして今も2人で幸せそーに笑っとるっちゅーこと。


 病気のことをななちゃんに正直に話したハル。ななちゃんはそれを聞いて、進路を変えた。目指しとった大学は辞めて、ハルのそばに少しでも長くおれるようにと、地元の学校を受けた。それにはハルも反対しとったみたいやけど、行きたかった学部はその大学にもあるから平気やって笑うななちゃんに、アイツも折れたらしい。


 いよいよ、未来は変わる。



 ……なんで俺がそんなん知っとるかって?


 ハルが、なんでも俺に相談してくるからや。アイツ、アホやから俺がななちゃんのこと好きやって言うたんも忘れとんちゃうかな。それでもそんなに腹立たしく思わんのやから、ホンマ、敵わんわ。



「あ、高野くん!」

 ハルと仲良くなるにつれて、ななちゃんと話す機会も増えた。失恋しても、忘れさしてくれんのやから……このカップルホンマうっとおしいわー。

「……ああ、おめでと」


 今日は、卒業式。

 まだ少し肌寒く、満開の桜が風に乗ってあちこちに散らばっとる。……ああ、綺麗やで。

 目の前で笑っとる、胸元にコサージュをつけて証書を握り締めたななちゃんの方が、よっぽど綺麗やけどな。


「ハルは?」

「最後に告白の嵐だよ」

 呆れたように言うけど、特に気にした様子はない。信じとるんやな、アイツのこと。

「高野くんも、すごかったんじゃない?」

「……やからこんなとこに逃げとるんやんけ」

 なりふり構わん女どもが一斉に押しかけてきて地獄やったから、慌てて人気のない裏庭にやってきた。ななちゃんは、なんでここに来たん?


「……最後にね、高野くんにお礼を言いたくて」

「──お礼?」

 座り込んどる俺を見下ろすななちゃん。優しく俺を見る瞳は、もう懐かしいあの頃と同じ。そうか、もうこれで“最後”なんか。


「私たちの背中を押してくれて、ありがとう」

 ……よかったやん。そんな幸せそうな顔見せられたら、後悔なんかできんわ。


「高野くんがいなかったら、多分もう別れてた」

 中3の俺は、それを喜んどったんやで?それやのに、自分のお人好し加減にはビックリや。

「遠い場所でハルが苦しんでるのも知らずに、馬鹿みたいに笑ってたと思う」

 たくさん、泣いたやろ。

 アイツがおらんくなったのを知ったとき、きっと人知れず涙を流したんやろ?人に弱いところを見せれんななちゃんやから、辛いのも見せんかったんやろ?


「きっと、ひどく後悔する」

 あの切ない顔も、させんで済むな。

「だから……ありがとう」


「……そんなん」

 口ん中が、カラッカラや。

「当たり前やんか」

 最後くらい、カッコつけさせてくれよ。

「ハルの、親友やからな」

 俺はこの先、また誰かを好きになるんやろうか。

 ななちゃんよりも、好きになることができるんやろうか。

“俺史上最高の女”を、越えられるんやろうか。


「ふふ、ハルハルコンビだもんね」

 ……想像もできんな。

「やめろって!ダッサいコンビ名やわー」

 したくも、ないわ。

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