第27話
「……で、そうちゃんの好きな人って……?」
繋がれた手はそのまま、悟られないように表情を引き締める。そして改めて聞き直すとビールを一気飲みしたそうちゃんがほんのり顔を赤くして「あのなっ」と話し出した。
「俺が好きなのは──」
「やっぱアカン!!気分悪いわ!!」
これまたタイミングよくそうちゃんの言葉を遮って、ガバッと起き上がった晴が私の二の腕を掴んで立ち上がらせる。
「……ここは奢りっスか?ごちです~」
「はあ!?お前な……!」
私の背をぐいぐい押して、個室から出ていかせる晴。
そして呆然としているそうちゃんにその綺麗な顔を近づけてぼそぼそと何か伝えている。
信じられないといった顔をしたそうちゃんに満足したのか、満面の笑みで個室から出て私の手を再び掴むとしっかりとした足取りで歩きだした。
……酔ってたんじゃないの!?
チラリと見上げたその横顔が、あまりにもご機嫌だったから何も言わなかった。
「……まじでハタチか、あいつ」
取り残された聡介がそう呟いて、店員にビールをもう一杯注文すると椅子の背もたれに身体を預けた。
「──アンタのターンはこれで終わり。20年も機会あったのに余裕ぶっこいて何もしとらんのが悪いんやで?どんだけカッコ悪ぅても、どんだけ子どもっぽくても、俺は絶対譲らんから。これからはチャンスすら与えたらんからな。せいぜい後悔しときや」
先ほど色気たっぷりの目で、そう堂々と言い放った晴を思い出す。
「……今更足掻いても、遅いってか」
頭をかいて髪が乱れるのもお構いなしだった。
「……あんな菜々、久しぶりに見たわ」
20年以上もの間、恋焦がれてきた。彼女への想いは負けない自信はある。それでも、あのたかが数年好きになったくらいの、ハタチの男に持っていかれるなんて。
10年ほど前にも味わった、息苦しさと情けなさで涙が出てくる。
「やっぱり、俺には無理なんだな……」
そんな独り言は、運ばれてきたビールの泡と一緒に寂しく消えていった。
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