第18話
『もしもし?ななちゃん今どこ?』
定時とともに会社を出た。雨は予想通り降り続いている。そこまで大きくもない傘をさして駅へと向かった。
晴の通う大学の前までやってきて、ちょうどいいタイミングでスマホが鳴る。これもまた、予想通り晴からだった。
「今ちょうど着いたけど……」
若くて可愛い女の子たちがお洒落な傘をさして門から出てくる。よく考えれば、晴と相合傘をしてくれる女子なんて腐るほどいるんじゃない?応募殺到するでしょ。
「ねえ、おねえさん誰か待ってるの?」
声をかけられてふと見上げれば、キラキラした笑顔とかち合った。
「どなたでしょう…」
晴に負けないくらいのイケメン……この大学どうなってるんだろう。
「俺!長尾祥太って言います!よろしくね!おねえさん!」
「はあ……」
多分この先よろしくすることはないと思うんですが……。その花が咲いたような笑顔で雲も晴れていきそう……。
スマホの奥で『ななちゃんっ!?オイ!』って焦った声が聞こえてきて、ハッとする。
「あ、ごめんなさい!人を探してるので!」
それだけを言って、その場から駆け足で去った。成り行きで大学内に入っちゃったけど、晴はどこ!?
「……おったあああ!ななちゃん!!」
突然大声で呼ばれて体がビクッと震えた。振り返ると全力で走り寄ってくる晴の姿。
周りの視線が痛いんですけど!?
「晴……うげっ」
駆け寄ってくる勢いそのままにタックルしてくるから変な声が漏れた。二人が雨に濡れないように必死で傘の位置を保つ。どこから走ってきたのか、まあまあ濡れてるし!!
「なんやあの男の声!?はっきり聞こえんかったけどナンパやないん!?なんもされてないか!?」
「だ、大丈夫だから……離してくれ……」
息苦しいし、居たたまれないしで穴があったら入りたいわ!!抱き着かれた瞬間、遠くの方で悲鳴が聞こえた気がする。さすがモテ男。
「その男の特徴教えろや!誰の女に手出したと思ってんねん!潰したる!」
ガラ悪いし、誰の女にもなったつもりないんだけど!?
私の両頬を掴んで、言え!と脅してくるからさっきの男の子の顔を思い浮かべる。
「……キラキラしてた」
「はあ!?」
「笑った顔が可愛くてキラキラしたイケメンだった」
「……絶対潰す」
私は選択を間違えたようだ。そのまま伝えただけなんだけどな。
「……いい加減、離そうか」
何が嬉しくてアラサーになって大学のど真ん中で6個も年下の、彼氏でもない男に抱きしめられるという公開処刑を受けなきゃいけないの。
「……アカン。もうちょい……」
なんてことを言う晴をバシッと叩いて引き剥がす。……あー疲れる。
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