第17話
「……で?付き合うの?」
「人の話聞いてた?」
月曜日、出社してすぐ橘くんに愚痴を零す。ぶち壊された合コンのこと、イケイケ大学生に翻弄されるアラサーの末路のこと。全て話し終えて、橘くんの第一声がこれだ。
「ベッドインしたんだろ?」
「いや言い方!!」
回転する椅子を左右に揺らして興味なさそうに話すこの男。聞いてもらっていてなんだけど、もうちょっと親身になるってこと知らないの?
「お前があの大学生と付き合えないのは年齢以外でなにか理由でもあんの?」
「……それが最大の難関でしょうが」
何を言っているのか、何を言いたいのか全く分からない。けれどそれは橘くんも同じだったようで、はあ?と顔を顰める。
「ってことはもう惚れてんじゃない?その子に」
「なんでそうなるの」
「だってそうじゃん。頑なに年齢に拘るってことは、そこ以外断る理由が見つからないからだろ?」
得意気に言い放った言葉に唖然とする。
「……だって、あの外見が無理って言えないじゃん、嘘でも」
「……まあ」
「優しいっちゃあ優しいんだよ。ちょっと子どもっぽいけど。でもハタチにしてはしっかりしてるし」
「……そ」
「頭もいいんだってよ」
「……あー」
興味なさげだった表情がさらに無へと変わる。
「……どこで断ったらいい?」
「……さ、仕事仕事」
「おい」
相談する相手間違えたわ。
「川瀬さん!」
出社の挨拶よりも先に詰め寄ってきたのはリエちゃん。
「この前のイケメンは何ですか!?聞いてないですよ!」
怒っているというよりは好奇心しか含んでいない表情だ。新しいおもちゃをもらった子どもみたいな。
「……いや、別に言うような関係じゃないんだけど」
「彼氏候補って……川瀬さん候補がいるほどモテるんですか!?大人しめな顔して意外と小悪魔なんですね!」
「ねえこれって貶されてる?怒った方がいいの?」
「……知らね」
橘くんはもう既にパソコンに向かって仕事を開始していた。裏切者め。
休憩時間になると、外は土砂降りだった。朝は晴れてたのに、なんて何だか憂鬱になる。職場に置き傘をしていたから困ることはないんだけど。
何気なくスマホを見れば晴からメッセージが来ていた。
〈ななちゃん!俺傘忘れた!!迎えに来てな!〉
……強制かよ。
〈迎えに来れる?〉とか〈迎えに来てほしいんだけど〉なら分かる。さすがイケメン。尽くされ慣れてますな。
面倒だけど、か弱き学生を見捨てるわけにもいかない。天気予報だと夜まで雨はあがらないみたいだし。
〈はいはい〉とだけ返して、立ち上がると財布を持って自動販売機へと向かった。
晴の大学の最寄り駅はどこだっけか。夜ご飯何にしようかな。晴に聞こうか。いつも「肉!」ってアバウトな答えしか返ってこないけど。あ、帰りに買い物に寄れば荷物持ちしてもらえるな。でも雨だしなー……。
そんなことを考えて、はっとする。
いかんいかん。晴のいる生活に慣れすぎている。表情を引き締めて、自販機のコーヒーのボタンを押した。
「あ"、これカフェオレじゃん。晴にあげよ……あ」
……まただ。なにやってんの、私。
「……なに、にやけてんの」
ばったり出くわした橘くんに少し馬鹿にされたから軽く脛を蹴ると「おいっ」と抗議する声が聞こえたけどそんなこと気にも留めなかった。
……にやけてる?はっ、んなわけないでしょーが。
くるりと振り返って、痛みに悶えている橘くんへさっきのカフェオレを投げつけた。
「は!?」
「あげる」
ナイスキャッチした橘君は珍しいものでも見るように、私とカフェオレを交互に見て
「……さんきゅ」
一応、お礼を言った。
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