第10話


 それから晴をソファに座らせ、キッチンでコーヒーを淹れると彼にマグカップの一つを渡す。「さんきゅ」と言ってセルフサービスの砂糖とミルクを大量投入した。……そーゆうところは、まだまだお子ちゃまなのね。


 ふーっと一息ついた晴はソファの背もたれに身体を預けると

「俺、今日からここに住むわ!」

 とまあ軽く言い放った。

「……はあ!?」

 危うく「そーなんだー」とか返しちゃうところだった!


「もう決めた!」

「私の許可は!?」

 冗談じゃないと食いかかっても鋼のメンタルの持ち主は

「こんなイケメンと住めるんやで?乙女ゲーやと思ってキュンキュン楽しみや」

 とか訳わかんない理屈を押し付けてくる。乙女ゲーって何!?おばさんついていけないんだけど!?


「ほんと意味わかんない!今住んでるところは!?」

「契約更新せんとく!ちょうどあと少しで更新時期やったし」


「荷物はどうすんの!」

「それはぼちぼち運んでくるわ。まだ契約期間は残っとるし、契約切れるまでに整理できてたらええわけやしな」


 なんなのそのタイミングの良さ!本当なのかと問いただしたくなるほどだ。


「やだよ!他人と同居なんて!」

「ほな俺と付き合ってくれるん?恋人なら赤の他人ちゃうやろ?」

 さっき何事もなく流せたと思ったのに、また振り出しに戻しやがる。

「それはもっと無理!!」

「即答かい……地味に傷つくやんけ!」

 今まで振られたことなんてないんだろうな。そう思わずにはいられない。


「そもそもここに住む理由が分からない!」

 そう言えば「は?」と少し冷たい声で、呆れたように鼻で笑う。


「……分かれよ。好きな女と少しでも繋がり持っときたいねん。このまま何もなく帰ってみ?どーせ連絡しても忙しいとかテキトーに言うて俺のことスルーすんねやろ?」


「……そんなこと……ある、かも……」

 そんなことないよ、なんて根拠のないことは言えなかった。それくらいには、晴の表情が真剣に見えたから。


「ホラな?一緒に住んだらななちゃんも俺の魅力にやられるで?そうなったら万々歳や」

「……やられなかったら?」

「……俺に落ちんと他に男ができたら潔く諦めたるわ」


 その表情はまるで「そんな男がこの世に存在するわけがない」と思わせるくらい自信に満ち溢れていて。

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