第9話
「……安心したわ」
「……なにが?」
「あの時言うてた“好きな人”と、どないかなってなくて。」
その言葉に、ぱっと記憶が蘇った。そういえば、その話もしたんだっけ。
「……どないか、ね……」
「……なんやねん、その意味深な間は」
目ざとい晴はその少しの動揺も見逃さなかった。
一度距離をとったものの、再び縮められる。眉間にしわを寄せたイケメンによって。
「まさか……どないか、なったん……?」
「……ノーコメント」
「マジでぇぇぇ……」
頭をガシガシとかいてため息をつく。「やっぱ遅かったか……」「でも彼氏ちゃうんやんな……?」なんてブツブツ言いながら悔しそうにするから、思わずふっと笑う。
「……結婚、した」
「……は?」
「その人、この間結婚したよ」
私の言葉に何とも言えない複雑な顔をした。
「……そっか。……しんどい?」
「……んー。どうだろ」
この間、だなんて言ったけれどあの辛く苦しんだ日からもう何年経つだろう。そもそも彼女もいたみたいだし、辛いとか苦しいなんて思う資格なんてない。もともと、私から放した手だ。
毎晩泣いて過ごす……なんてセンチな女でもないけど、彼のことを考えない日はなくて。きっと人はこれを吹っ切れていないと言うのだろう。
「今は、晴がいるから思い出さなくて済んでるかな」
今、この瞬間は。という意味だったんだけど、晴はなぜか固まってしまう。
「……なんやソレ。可愛すぎるやろ……」
「なんで!?」
「そんな期待させるようなセリフ、簡単に言うたらアカンで」
えー……。キメッキメの顔で言うのはまあいいんだけど。腹立つくらい綺麗な顔。
「……わかった」
「絶対わかってへんやろ……」
「晴には期待させるようなこと言ったらダメなんでしょ」
「ちゃうわ!!俺以外に言うたらアカンのや!俺はいつでもウェルカムやで!!」
「帰ってくれる?」
「なんでやねん!!」
初めての生「なんでやねん」ツッコミにはちょっと感動した。
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