第6話


 晴はそんな私のことなんてお構いなしに少し遠くで待機していた、これまたイケイケなご友人たちへ向かって大きめな声をかける。


「マジで?晴……ナンパか!?」

 学生ノリにはついていけない……。ワイワイ言ってる人たちに背を向けて、そそくさと帰ろうとする。


「アホか。……やぁっと見つけた俺の大事な人や!」


 そうきっぱり言った晴に頭がクラクラして、思わず足を止めたけれど、はっと我に返ると友達に気を取られて私に背を向けている晴を置いて駆け出した。


「あっ!!逃げんなやー!!」

 逃げる私に気付いたのか、晴の怒鳴り声が降りかかってくるけれど、無視無視!ヒールで足が痛むけど、必死で走った。



「ごらぁぁぁぁ!!」

「いやぁぁぁぁー!!」



 ……運動神経もいいのかよ!!

 神様!!そこ歩いてるブサメンにどれか分けてやって!!



 結果的に、逃げても無駄だった。すぐに肩を鷲掴みにされて、ストップ。運動不足アラサー女の体力なんて持つわけがない。息を整えるのに必死な私を見下ろして余裕そうに鼻で笑う晴。


「俺から逃げれると思っとんか?」


 ……だから!ただの!顔見知り!


「……はやく、友達のところ…行きなよ…」

 手でシッシッと追い払う仕草をすると、チッと舌打ちをされた。なんでよ。


「ホンマ、俺ばっかりや……」

 それだけを呟くと、大きくため息を吐いて「まあええわ」と言う。


「……逃がさへんよ」

 それは……今私が逃げたから、言ってるんだよね?なんだかこの言葉の裏に違う意味が含まれている気がして晴から目を逸らした。


「俺が追いかけても、絶対に逃げんといて。ちゃんと向きおうてや」

「……なんの話?」

 震えそうな声で尋ねれば、彼は軽く首を横に振った。



「そうやな、言わな伝わらんか」

 今度は大きく息を吸って。深呼吸をする。

「──追っかけてきたって言うたやん。俺は、あの時から……」


“あの時”とはきっと、5年前……彼と額を寄せて問題集と睨み合ったあの頃のことを言っているんだろう。

 あの頃から、君は何を思っていたの?何を求めてここに来たの?



「……ずっと、好きや」

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