第5話



「──せんせぇっ!!」

 甘く高い声。……いや、あの頃より少し低くはなってるかな。


「久しぶりやな!」

 会社の飲み会の帰り。駅の近くの居酒屋やバーが立ち並ぶ繁華街で、もう聞くことのなくなった関西弁が耳に残る。

 反射的に振り返った先には──5年前の面影を残したまま、驚くほど格好よく成長した晴の姿。


「あ、もう先生やないな。──ななちゃん」

 初めて名前を呼ばれて、しかも相手は目が飛び出るほどのイケメン。動揺しないわけがなかった。


「は……晴くん?」

「やめてや。余所余所しいやん。晴でええで」

 余所余所しいも何も、ただの顔見知りなだけなんですけど!?


「なんでここに……?」

「大学、こっちにした」

 歯を見せて笑う晴を見て、胸が高鳴った……のは気のせい。そう、気のせい。

「へえ……偶然だね」

 そう当たり障りのない言葉をかけると、晴の目が細められて怪しく光る。


「──偶然やと、思う?」

 ……ん?どういう意味だ?

 そんな意思を表すために首を傾げてみれば、彼は「あーもう!」と頭をかきむしる。



「……ななちゃんを追っかけてきたって言うたらドン引きする?」


 観念したようにそう言った。

「は?」

 晴は「これでわかるやろ!」と言わんばかりの表情だけれど、私には全くわからない。


「や、でも俺みたいなイケメンにやったら胸キュン間違いなしか」

「何言ってんの?」


 最初は恥ずかしそうにしていた晴だけど、次第に自信が回復してきたのか、何か吹っ切れたように笑った。


「とにかく、俺はななちゃんに会うためにこっちの大学に来てん。やぁぁっと会えた……!」

 ……とりあえず分かったのは、彼はなぜか私に会うために上京してきたらしいってこと。その理由は全く不明だ。……多分、それが一番大事だと思うんだけど。



「そういうことで、はい」

 右手を出して何かを要求する晴。私が首を傾げていると、手に持っていたスマホを奪い取られた。呆気にとられる私のスマホを操作する図々しい男。……まあ、見られてまずいものはないからいいんだけど。


「何してんの?」

「連絡先交換してんの」

「なんで?」

「はあ!?ななちゃんってアホなんか?俺の話ちゃんと聞いとった?」

「え、聞いてはいたけど」

 6個も年下にこんな馬鹿にされることある?目尻が吊り上がりそうになりながら必死で大人ぶる。


「こんなチャンス逃すわけないやん。探してた人に会えたんやで?」

「はあ……」

 いや、だからなんで私を探していたのかが気になるんだけど!


「そういうことで、家まで送るわ」

「いやいやいや……」

「帰るとこちゃうん?」

「……そうだけど」

「ほなええやん。……おい、悪い!俺抜けるわ!」

 ああ……6個も年下に振り回されてる、押しに弱い自分を恨む。

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