第4話


 私は川瀬 菜々(かわせ なな)。26歳のどこにでもいる、平凡なOLだ。外見に優れたわけでも、頭がいいわけでもない。学生時代も、今も。大人しく地味に生きてきた。

 そんな私の人生に、突然台風のような暴風が吹き荒れる。


 それが私のマンションの部屋で寛ぐ高野 晴という男。その辺の芸能人にも勝る顔立ちはそりゃあもうすれ違う人皆が振り向くほど。華奢なモデル体型も少し攻めたオシャレなところも、天下のアイドル事務所のオーディションを顔パスで通っちゃいそうなくらい。外見はまさに完璧。


 玉にキズなのは、喋ると少し残念なところ。ハスキーな声で関西弁を扱う彼の俺様系な雰囲気は、好きな人は好きなんだと思う。性格はナルシストで自信家で子どもっぽくて……時々天然。それも彼だから許されてきたんだろう。この顔ならナルシストなのも自信家なのも頷けるし、子どもっぽいって言っても、実際私より6歳も年下なのだから、それも当たり前。



 出会いは5年前。私はまだ大学生で、関西の大学に通っていた。そこで何やら友達の友達の……よく分からないけれど、回り回って私のところまで「家庭教師をしないか」という依頼が舞い込んできた。

 実家を離れて絶賛貧乏学生中だった私は、意外にも高額だったバイト代に釣られて引き受けたのだ。その相手が当時中3の晴だった。



 昔から変わらない綺麗な顔をした小生意気な男の子だった晴。はじめこそギクシャクしていたけれど、いつしか「せんせぇ」と笑顔ですり寄ってくるほど懐かれて、私もそんな晴が可愛くて仕方なかった。本当に撫でまわしたいくらい。


 最初の成績はどん底レベルで酷い状態だったけれど、もともと飲み込みは早いらしい。彼の点数は見る見るうちに伸びていった。そして第一志望だった高校にも見事合格したのだ。私と晴の縁はそこまで……のはずだった。



 晴が高校へ上がってから家庭教師のバイトもなくなって、私は就活に忙しく会うことなんてなくなった。そして大学卒業後は東京へ戻って比較的大きな企業に就職。ひと時の非凡はあったけれど、結局そんなものなのだ、私の“平凡”は。


 ……それなのに。

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