第3話


 すると私たちの会話を静かに聞いていた橘くんが突然声をあげた。

「……いるけど」

「え?」

「は?」

 ぽかんと橘くんを振り返る私と少年は息ぴったり。


「……ちゃんと川瀬のこと好きな、“まともなやつ”、いるけど」


 悪戯に笑った顔もそれはもうお綺麗で。これに落ちない女はいないんじゃないかって思う。自分のことは棚に上げて。


「えー!そんな人いるの!?どこに……」

「はあー!?」

 私が詳しく聞こうとするとそれを遮るかのように大きな声が響く。


「ちょ、嘘やん!そんな伏兵おるん!?聞いてないってえ!」


 頭を抱えながら焦りまくっている目の前の大学生は橘くんの言葉から何か読み取ったらしい。私には全く分からなかったけれど。イケメン同士、通じ合うものがあるのかな。


「っていうか“橘くん”ってこんなイケメンなん!?いつも名前は聞いてたけど……これから2人で飲むの禁止な!!」

「は?なんでよ!」


「ななちゃんアホなん!?今の話聞いてたら俺が行かせると思う!?しかも相手がイケメンやで!」

「……今の話のどこにあんたが敵意向ける必要があるの?」


「はあああ……。ホンマななちゃんって……」

 大きくため息を吐くと、橘くんをその色素の薄い綺麗な瞳でキッと睨む。


「高野 晴(こうの はる)。ななちゃんの未来の旦那になる男やから、覚えといてください」

「……ふーん」


「会社の同僚なら結婚式にも呼ばなアカンでしょ。招待状送りますね」

 敵意むき出しの晴にも動じず、涼しげな表情の橘くんは、ふっと短く息を吐いて笑うと

「……橘 大輔。その相手が俺だとしても、あんたには送らないから安心して」

 また私にはよく分からない言葉をかけた。



「それだけは絶対にさせへんわ!!」


 とりあえず、うるさすぎてもう帰りたい。





「いや……意外だったわ」

「なにが?」

「川瀬は青山さんが好きだと思ってた」

「ななちゃん!?初耳やでそれ!誰やねん!アオヤマて!」

「……上司だけど。ただの」

「仕事ができる爽やかな長身イケメンだけどな」

「ななちゃんのアホ!浮気者!」

「ねえ橘くんってバカなの!?」

「俺のせいかよ」

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