第2話



「──あ、おったおった」


 階段を上りきってすぐ、少し高めの声で発せられる独特なイントネーションが耳に届いた。ぱっと声のした方を見れば、ため息しか出ず。

 ガードレールにもたれてズボンのポケットに両手を突っ込む姿が、どこかの雑誌で見たように様になっている男。


「ななちゃん」

 甘い声で私を呼び、ニッコリと微笑むこの男は。


「……誰?川瀬の弟?」

 そう、お洒落でピチピチの肌でおモテになりそうなイケメン……どう考えても私よりずっと年下なイマドキの若者なのだ。


「だーれが弟やっちゅうねん!?」

 明らかに年上なスーツ姿の男性に食ってかかるところ……うん、さすが怖いもの無し。

「……すんません」

 その迫力にあの橘くんもタジタジだなんて、少し笑えた。


「俺は、ななちゃんの彼氏……いってえ!」

「バカ言わないでよ!」

 すぐにその笑いも吹き飛ぶんだけれど。思い切り足を踏みつければ整ったお顔が一気に崩れた。


「違うんじゃん」

 橘くんのツッコミにも強気な姿勢は続けるらしい。


「違わへん!“まだ”彼氏候補なだけや!」

「っていうか、まだ学生じゃね」

「だから何なんすか!そのうち嫌でも卒業するんで!」


 もはやケンカを売ってるとしか思えない。そんな彼を見て、それから私を見た橘くんは何かを企んだように目を細めた。


 あ、これはヤバい。

「橘くん!?その目やめてくれる!?」

「……あれ、川瀬って明日合コン行くんじゃなかったっけ?」

 そう爽やかな笑顔で爆弾を落とすから冷や汗が流れる。これはマズイ。非常にマズイ。


「はあ!?そんなん聞いてへんで、ななちゃん!」

 案の定、この少年は詰め寄ってくる。

「あんたの許可がいるの!?」

 そう言い返したところで

「いるに決まってるやん!彼氏候補やって言うたやろ!?」

「それ、私許可してないけど!」


「そんなんいらんやん!この年下イケメンやで!?断る理由ないやろ!」

「馬鹿じゃないの!年下にもほどがあるわ!」


「6個なんかあってないようなもんや!ななちゃん男運ないんやから俺にしときって!」


 私の言い分の斜め上から理不尽に言い包めようとしてくる。


「なんで私の男性遍歴知ってんのよ!怖い!」

「こんな地味で色気もないアラサー女見てたらわかるわ!まともなやつが好きになるかいな!」

「あんたねー!!」


 6個も年下の男の子と言い合う私も相当大人げないとは思うけれど。こんな調子だから口説き文句だって本気にできないんだって。

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