北極ギツネ
また別のある日の事。
その日は全く風の無い穏やかな日だった。太陽が少しだけ顔を見せた。雪面がキラキラと輝き、大地も喜んでいるようだ。少しの光があるだけで、感じるこの温もりは何だろう? 寒々としていた心にもぽっと
視界の左側には、子供が砂場に作るような小さなこんもりとした盛り上がりが幾つかある。そのうちの一つの雪山のてっぺんがふわふわとしているように見える。触れればきっと雪とは触感が異なるだろう。
じっと見ていると、背中に隠れていた顔が現れた。小さな黒い丸が三つ。二つの目と一つの鼻が三角形に並んでいる。
音も立てず、軽やかにジャンプすると、真っ白な華奢な身体はトコトコと遠くに去っていった。
亡くなった妻の姿が蘇る。
・・・
私達の子供が消えてから一ヶ月程が経ったある日の事、妻は静かにゆっくりと言葉を放った。
「秋も深まってきたわ。このままではこの冬を越すのは厳しいでしょう。貴方が猟に出れないのなら、私が猟に出ます」
凛とした美しい姿だった。私はハッとした。私はウサギを見るのが怖くて、この一ヶ月間猟に出ていなかった。妻はすっかり痩せこけていた。
いや、そもそも一年前に結婚したものの、私の猟の腕は一人前には程遠く、充分な食料を確保する事が出来ないでいた。母乳の出が悪く、子供を亡くしてしまったのも私のせいだ。
「悪かった。君は北極ギツネみたいに美しいよ。これからはオレがちゃんと守ってやるから。ちゃんと獲物を獲ってくるから。もう心配しなくていいよ」
何と情けない。私は慌てて鉄砲を持ち、出掛けていった。
遥か彼方に美しい北極ギツネがじっと座っているのが見えた。
しきりに首を
私はその時、冷たい殺気のようなものを感じた。右手の方に目を移すと一匹の北極オオカミがなりをひそめて雪に這いつくばり、キツネの様子をじっと伺っているではないか!
私がそれに気づくやいなや、矢のような勢いでオオカミが疾走し、あっという間に、口に白い獲物を咥えて逃げ去っていった。
嫌な予感がした。私は猟には向かわず、一目散に家に向かって駆けた。
家に戻ると妻は力尽き、帰らぬ人となっていた。
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