第61話 お皿、割らないでね

 ――――――――――――――前回までのあらすじ――――――――――――――

 みなさんこんにちは!雪子です。大変ご無沙汰しております。

 試験がやっと終わりました!近況ノートの方へコメントをしてくださった方、本当にありがとうございました。おかげで頑張れました♪

 前回のお話から更新まで時間が経ってしまったので、少しおさらいをしようと思います。必要のない方は読み飛ばしてもらって構いません。


 3年間別居していた父と再会した雪斗。現在の父の姿に困惑するも、桜火の言葉を聞いて、家族について考える。

 一方桜火は、そろそろ真剣に真弓と向き合わなければならないと考え始める。

 雪斗が父と再会して一週間ほど経ち、傘屋くもり空の掃除をすることになった雪斗

と雨月。久しぶりに雪斗と会った雨月は、自分は助けてもらったのに自分は何もできなかったと肩を落とす。そんな雨月を見て、雪斗はうまく言葉が出てこない。

 なんとなく気まずい2人の雰囲気を感じ取った桜火は、「これから急用を思い出す予定だ」と雪斗に伝え、2人がゆっくり話ができる環境を整えようとする。




     ――――――――――――――本編――――――――――――――

 居間に戻ったあと、僕たちは十花さん特製の豚の角煮を思う存分堪能し、幸せをお腹に抱えて苦しいくらいであった。

「お腹いっぱいだねー。幸せー-」

 桜火がお腹をさすりながら言った。

「本当に。ウサギくらいなら産めそう」

 雨月が衝撃的なことを言い出した。

「え⁉それは…種を越えた奇跡だね。有名人になれるよ」

「フフフ、世界中に知れ渡っちゃう」

 確かに、お腹いっぱいご飯を食べた雨月のお腹は、普段よりふっくら前に出ている。子ウサギくらいなら入りそうだ。…こんなこと言ったらセクハラだと言われてしまうかもしれないので黙っておこう。

「…本当にウサギが入ってそうって思ったんでしょ」

「へ!?」

 雨月がじっとりした目で僕を見つめてきた。雨月のお腹を見ていたことに気づかれたか…⁉

「あ、図星?」

「…ごめんなさい」

 図星な僕は、素直に謝ることにした。下手に言い訳をしようとすると墓穴を掘ることになるのだ。素直に謝った方が身のためである。

 僕はちょっとだけ頭を下げた後、窺うように雨月を見た。

「怒ってないよ」

 目が合った雨月が、柔らかく微笑んだ。

「楽しそうな話をしているね」

 桜火は雨月にそう言った後、僕に目配せをしてきた。『いくよ』というように眉毛をクイっと上げる。

「言い忘れてたんだけどさ、僕午後から三郎さんに呼ばれてるんだよね。そろそろ行かないといけないんだ」

「え、そうだったの?」

 雨月が少し残念そうな顔をした。僕は、桜火の言葉が僕と雨月を2人にするためのものであると知っているので反応が難しい。一応、驚いたように目を大きく開いて見せた。

「ごめんね。僕も忘れてたんだ。掃除の続きは2人でやってくれてもいいし、後日にしてもいいよ。じゃ!」

「え、あ、くもさん…!」

 桜火は口早に言って、これでもかと健気な顔で後ろ髪を引く雨月をおいて玄関に消えていった。居間から出ていく桜火に反射的に手を伸ばした雨月の方を桜火が振り向かなかったのは、振り返ってしまったら足止めをされる自信があったからだろう。

 ともかく、僕と雨月は2人きりになった。


「くもさん行っちゃったね…」

「ね」

 僕たちは、閉まった居間の扉をぼんやり見つめた。

「とりあえずお皿洗いしようか」

「分かった。僕が洗うから、雨月は拭いてくれる?」

「雪斗が洗ってくれるの?」

「うん、まかせて」

 僕が皿を洗うことを提案すると、雨月が少し意外そうな顔をした。僕も、普段とは違うことをしている自覚がある。

 たいていこういう時、すぐに状況を判断して指示を出してくれるのは雨月だ。それは学校でも、桜火の家でも変わらない。僕は決してそんな雨月に面倒な仕事を押し付けてきたわけではないが、雨月の行動の素早さに甘えて『指示を待つ側』だったことは否めない。

 指示を出してくれる雨月は、いつも『比べると若干大変そうな方』を選ぶ。例えば、今。皿洗いと皿拭きだったら、皿洗いの方が若干大変だ。荷物を持つ時はちょっと重い方を選ぶし、机も重い方を運ぶ。雨月は器用だから、そういう細やかな気遣いをしていることさえ他人に悟られないように上手にこなす。大変そうな方を選んでいるのに、大変じゃない人より早く仕事を終わらせたりする。

 そういう雨月を、僕はずっと見てきた。見ている、だけだった。

 だけど、雑巾がけはいい運動だと言っていた本の主人公がかっこよくて真似をしたという雨月の話を聞いて、僕もかっこいい誰かの真似をしてみたくなった。

「お皿、割らないでね」

 ちょっと意地悪な顔をして僕を見つめる雨月の顔が、そこはかとなく嬉しそうにも見えて、僕もなんだか嬉しくなる。

「そういわれると割るような気がしてきたよ」

「やめてよー」

「雨月のせいだろー」

「ごめんごめん」

 僕たちは『これからお皿を割る人』の会話をしながら、お皿を下げた。

 

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