第25話 どんなにたくさん願っても2ー雲松桜火、小学2年生ー

「ここはご飯を食べるところ、台所、本棚の部屋。…はーい2階に行きます。201号室風花の部屋、202十花の部屋、203桜火の部屋…」

「「え⁉」」

 さらっとされた案内の中で、僕の部屋とお姉ちゃんの部屋があることに僕とお姉ちゃんは驚いた。

「どうかした?」

「あ、いや、私たちの部屋があるから…」

 お姉ちゃんがおろおろしながら言う。そんなお姉ちゃんを見て、お母さんは

「なーに遠慮してるのよ!今日からみんな家族なんだから!」

 と言って、僕とお姉ちゃんの手を握る。…家族か。とてもいい響きだな。

 お母さんは案内の続きをする。

「はい次、204風花、十花、桜火の寝る部屋。205物置。覚えた?桜火、言ってみて」

 …急に話を振られて僕はだんまりしてしまう。たぶん覚えられていない。

「…えーと、201風花の部屋、202僕の…じゃなくて十花の部屋、203僕の部屋、204寝るところ?205物置だっけ…?」

 意外なことに僕は部屋を覚えていた。

「すごーい!桜火は記憶力がいいのね」

 お母さんが目を細めて、僕の頭を撫でてくれた。久しぶりに感じる人の温かさに、僕はくすぐったい気持ちになって、泣きそうになってしまった。


その日の夜。僕たち子供3人は204号室、寝る部屋にいた。

「ねえ、お泊り会みたいだね」

 風花が布団に足をバタバタさせている。

「そうだね、お泊り会ってやっぱ…」

「「寝れないよねー」」

 風花とお姉ちゃんの声が重なる。顔を見合わせて楽しそうだ。今日あったばかりなのに、二人は仲良くなるのが早いなあ。

 お泊り会って寝れないものなのだろうか。僕はすでに目が半分しか開かないんだけどなあ。

「お泊り会といえば恋バナだよね!」

 唐突にお姉ちゃんが言った。

「そうだよね」

 風花が同意する。えーと、風花は僕より2つ年下だから幼稚園の年長さん⁉なのに恋バナ⁉僕は小2だけど、恋バナなんてしないぞ。

「風花、好きな人いる?」

「うん」

 ブハッ。そんな簡単にいるものなのか?好きな人って。

「十花は?好きな人いる?」

「うーん、いないな」

 うんうん。僕もそうだ。

「お兄ちゃんは?」

「え、僕?」

 いきなり風花が僕に話しを振ってきた。

「いないの?かわいいと思った子とかいない?」

 え?え?どうしよう。僕はこういう話になれていないんだ。たとえ好きな子がいなくても、なんだか恥ずかしくなってきてしまう。顔が赤くなってきたのを感じた。

「いないの?」

「どうなの?早く言ってよー」

 視界がぐるぐるする。両脇から攻められて、僕はうまく言葉が発せない。

 ばたん

 僕は逃げるようにして布団に顔をうずめた。よし、このまま寝よう。

「桜ちゃんー!寝るなんて卑怯よ!」

 遠くで十花の声が聞こえる。あー眠い眠い。

 にぎやかな場所で寝るのは久しぶりで、お母さんとお父さんがいなくなってしまった寂しさが和らぐ夜も久しぶりで、僕は心地よく眠りにつくことができた。

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