第24話 どんなにたくさん願っても1ー雲松桜火、小学2年生ー

 雨の日は、記憶を刺激してくる。雷の音は、大切なものを失ったあの日を思い出させる。

 大人なふりをして、頼りになるおじさんになりたくて、大切な家族に幸せになってほしくて。

 一番『家族』というものにしがみついているのは、僕なのかもしれない。



「風花、今日から私たちの家族になった十花ちゃんと桜火くんよ。仲良くね」

 新学期に入った小学2年生の春。僕は知らない女の人に連れられて『新しい家』にやってきた。

「あ、あの、僕は相川あいかわ…」

「桜火くん、違うわ。今日から雲松よ」

「あ、雲松桜火です。よろしくお願いします」

「雲松十花です。お願いします」

 僕は自己紹介をする。僕が自己紹介をした後に、お姉ちゃんも頭を下げた。

 今、目の前には優しそうな女の人と、小さな女の子がいる。

「フフフ、桜火くん、十花ちゃんよろしくね。私は雲松笑美くもまつえみ。お母さんって呼んでね」

「私は雲松風花。よろしくね」

 これが、僕の2人目のお母さんと、妹との出会いだった。

 お母さんとお父さんが事故に遭って一か月。あれからいろいろあった。お葬式…とかいう黒い服をきた人たちがいっぱいいる式に出たり、家が変わったり。そのたびに小学4年生のお姉ちゃんはたくさん泣いた。僕は、男の子だから泣かないんだ。お父さんがいつも『男の子は泣いている女の子と助けてあげないとな』と繰り返し言っていたから。

 でも、そんな僕をみてお姉ちゃんはまた泣いてしまう。

「我慢しなくていいんだよ」

 と。

「さあ、今日からここがみんなの家だよ」

 そんなことを考えていると、笑美さん…お母さんが話しかけてきた。

「おっきい!」

 お姉ちゃんは少々興奮気味だ。

「でしょ!!私のおうち、広いのよ!」

 今日から妹になった風花が得意げに鼻を膨らます。

「フフフ。気に入ってくれた?そろそろ中に入りましょう。外は寒いわ」

 ガラガラガラガラ

 扉が開く。扉の先には大きな大きな本棚が、僕を待ち受けていた。

「すっごい本の量…」

 僕はつぶやく。

「そうなの。私の旦那さんが本大好きでね。ずーっと集めていたの。かっこいい人だったのよ」

「そうなんだ…」

 笑美さん…お母さんの口ぶりからして、その旦那さんはもうこの世にいないのだということが想像できる。

「もう、天国にいっちゃったんだけどね」

 そういってお母さんは悲しく笑う。やっぱりか…

「捨てるに捨てられなくてね。読みたければ読んで頂戴。本もその方が嬉しいでしょうから」

 フフフ、とお母さんは目を細めた。

「さあ、しんみりしている場合じゃないよ!まずはこの家を案内しなくちゃね!広いからよーく見て覚えてね。風花、十花ちゃん、桜火くん、行くよ!」

「はい!」

 レッツゴーと高らかに右手を挙げて、お母さんが先頭を行く。風花、お姉ちゃん、僕の順番でお母さんに続いた。

 その時の僕は探検隊になったような気分だった。

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