第12話 大事な話はシチューを食べながらしよう2ー雲松桜火ー

「お兄ちゃんが電話で話してくれたけど、2人がいとこだってこと、2人に伝えたんでしょ?」

 夕飯を食べはじめてしばらくたったころ、風花が話を切り出した。2人とは雨月ちゃんと、雪斗くんのことである。風花はさりげなさを装うように、視線は皿の中の残り少ないシチューに向けていた。十花も同様に、視線はシチューから離さなかった。2人とも、僕が今日彼女たちの子供について話したかったことを察しているらしい。あくまでご飯がメイン。大事な話を切り出す時というのはそういうものだ。会いたい人には会いたいといわずに「映画でも見に行こう」というし、話があるときは話があるといわずに「ご飯を食べよう」という。

「うん、話したよ。困惑してた」

 僕はそのままを話す。

「そう…」

 風花も十花も、同じような反応をする。風花がスプーンを置いて、僕に向き直った。

「2人にはひどいことをしたわ。お兄ちゃんにも迷惑かけたわね。ごめんなさい、ありがとう」

 風花が頭を下げてくる。胸がきゅっと痛む。謝ってほしいわけではなかった。

「私もお礼を言うわ。ありがとう、桜ちゃん。こんな機会がなかったら、私いつまでたっても言えなかったかもしれない。本当のことを言うと、怖かったの。私が、今の夫との家庭を、雨月との新しい家庭をうまく築けていないことを、桜ちゃんや風花に知られたくなかった。雨月が、雪斗くんと仲良くなることで、桜ちゃんや風花、真弓ちゃんに、私の現状が知られたらどうしようって、自分を守ることしか考えてなかったんだと思うわ。自分で何とかしなきゃって、むきになってた」

 十花がうつむく。自分勝手だったわと、つぶやく。家族と真剣な話をするのはくすぐったい。できれば避けて通りたいものだ。でも、いつまでも避けているわけにはいかない。雨月ちゃんと、雪斗くんのためにも。僕たち自身のためにも。

「雨月は、あれから桜ちゃんにべったりだし、桜ちゃんには迷惑かけちゃってるわ」

「いいんだよ。兄弟なんだから。かわいい姪っ子と甥っ子の面倒くらい見させてよ」

 僕は2人の肩をポンポンと叩く。2人がいう「迷惑」とは何も雨月ちゃんと、雪斗くんの面倒を見ることだけではない。おそらく彼女たちの夫との関係のことも含んでいるのだろう。はっきり言っておこう。彼女たちは夫とうまくいっていない。そのことは雨月ちゃんや雪斗くんの心に暗い影を落とし、彼女たち自身も苦しめている。

「…僕たち家族は複雑だしね。十花と僕は血のつながった兄弟だけど、風花とは血がつながってないし、新しい家族になった時にはお父さんいなかったしね。家族というものに対して、過度な憧れとコンプレックスがあっても仕方ないよ」

 そう、僕たちにはお父さんという存在がいなかった。2人はそのことを気にしていたのか、自分が家庭を作るときに理想のお父さんを求めすぎたのかもしれない。

「ごめんね…」

「ごめんなさい」

 2人が泣きそうな顔で僕を見てくる。胸が痛くなるからやめてほしい。

「謝るの禁止!ほら、笑って」

 そういって僕は変顔をする。2人が一瞬目を点にして、直後に吹き出す。よかった笑った。

「やめ、やめて、やめてよ。桜ちゃんの変顔、最高なんだから」

「ハハハ、昔からこの顔には弱いんだよね、私たち」

 笑った2人を見て、僕もうれしくなる。真弓も、お腹を抱えて笑っている。そうだ、これでいい。彼女たちには笑顔が似合う。

「はあー…笑った笑った。でも、これからも迷惑かけちゃうわね」

 ひとしきり笑った後、風花が言う。

「だから、気にしないでって!あんまりしつこいと、お兄ちゃん怒りますよ」

 僕は、頬を膨らませて見せる。

「でも…」

「そんなに言うならこうしよう。僕はこれからも、雨月ちゃんと雪斗くんを時々預かります。その代わりに、2人には僕の仕事を手伝ってもらうことにします」

 僕は、机に両手をついていった。

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