第11話 大事な話はシチューを食べながらしよう1ー雲松桜火ー

 雨月ちゃんが土砂降りの雨の中、うちに助けを求めに来た日から2週間ほど経った。あれから2人は、僕の家によく集まるようになり、どんどん仲良くなっているようだった。十花と話し合い、定期的に雨月ちゃんはうちに泊まるようになり、真弓とも打ち解けていった。雨月ちゃんは最初は遠慮していたが、最近は慣れてきたようで、時々思いつめたような顔をすることもあるが、真弓や雪斗くんと話している時はとても楽しそうであった。この家が彼女にとって、だんだん安心できる場所になりつつあるのを感じる。


「久しぶりにみんなでご飯を食べないか」

 僕は、風花と十花にこんな提案をした。みんなとは、僕・風花・十花・真弓の4人のことである。

「そうね、久しぶりにみんなでご飯を食べましょう」

 僕の提案に、風花も十花も賛同してくれた。真弓も2つ返事で承諾してくれた。真弓がいてくれるのはとてもありがたい。彼女がいると、場の空気が柔らかくなる。

「いらっしゃい、風花、十花」

 予定より少し早く、2人が家にやってきた。空はまだ明るいが、夜がすぐそこまで来ている。兄弟3人で、顔を合わせるのは久しぶりなので少し緊張する。今日は雨月ちゃんも、雪斗くんもいない。2人は、三郎さんと一緒に外食に出かけている。風花は現在夫と別居中で、雪斗くんもお父さんには複雑な思いを抱えている。十花も現在家族について複雑な事情を抱えており、雨月ちゃんは家にいたがらない。その事情を説明すると、三郎さんは快く

「俺に任せとけ!おいしいもん食べさせてやるからよ」

 と言って、2人を預かってくれた。三郎さんには頭が上がらない。

「さ、入って入って」

 玄関に立ったままの2人を僕は居間へ通す。昔はこの家でみんなで住んでいたのに、風花も十花もどこかよそよそしい。2人が幸せに新たな家庭を築いてくれているのなら、そのよそよそしささえも喜べるのに、そうでないから悲しい。

「夕飯はシチューだよ」

 僕は努めて明るく話す。僕の言葉を聞いて風花の眉毛がぴくっと動いた。

「ちょっと待って…お兄ちゃんが作るんじゃないでしょうね⁉」

 風花が心配そうな顔をする。

「喜ぶがいい、我が妹よ。今晩のシェフはこの私だ!」

 僕はわざとらしく両手を広げて天を仰いで見せる。ちらっと風花の方を見ると、苦虫をつぶしたような顔をしていた。

「ちょ…そんなにいやそうな顔しないでよ、傷つくじゃん」

「安心して、風花。作るのは私よ。もう少しでできるから座って待ってて」

 シチューのいい香りとともに、台所から真弓がやってきた。その瞬間、十花も風花も嬉しそうに目をキラキラさせた。

「よかったー桜ちゃんが作るっていったら、私逃げようかと思ってたのよ」

 十花がフフフと笑いながら言う。冗談であってほしいが、どうやら本気のようだ。

「私も、お兄ちゃんが作るって言ったらもう、どうしようかと思って。弓ちゃんが作ってくれるなら安心ね」

 風花も笑いながら胸をなでおろす。…二人とも相変わらず優しい顔してずけずけ言うなあ。

「そんなこと、私がさせないから安心して。せっかくみんなでご飯食べるんだもん。おいしくなきゃ」

 真弓…君も僕の敵なのか…そんなに僕の料理はひどいかい?食べれないこともないんだけどなあ。きっとみんなの舌が肥えているのだ。そうに違いない。僕の料理が破滅的とか、そんなんじゃないぞ。みんなひどいなあ。でもまあ、さっきのなんとも言えない空気が明るくなったので良しとしよう。

「できたわよ」

 真弓がシチューをお盆にのせて運んできた。今日も藤色のエプロンがよく似合っている。

「いただきます!」

 4人で食卓を囲む。久しぶりの団欒の時間が、僕は素直にうれしくて思わず口元がほころぶのを感じた。

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