第53話 イブとラブ(3)

 魔王がドラゴンをひっぱたく。

「いつもいつもお前ばっかり、ちやほやされて!」

 ドラゴンが魔王をひっぱたく。

「お姉ちゃんだって、自分から仲良くすればいいじゃない!」


「お前のせいで、私はいつも一人ぼっちなんだよ!」

「それは、お姉ちゃんが勝手に思っているだけよ!」

「うるさい! うるさい! うるさい!」

「カーナリアを手を取らなかったのは、お姉ちゃんでしょ!」


 カーナリア! その言葉に反応するかのように魔王の攻撃がピタリとやんだ。

 ドラゴンも攻撃をやめた。

 二つの体がみるみる小さくなっていく。


 そこには二人の女の子の姿。

 その体は透き通って美しかった。

 一人は赤い目の女の子

 もう一人はピンクの目の女の子


 赤い目の女の子は、自分の手を見つめる。

「カーナリア……」

 赤い目の女の子は思う。

 私は、あの時なぜ、カーナリアの手を取らなかったんだ。

 怖かったんんだ……

 黒い霧から出ることが怖かった……

 死ぬのが怖かった……

 いや、私は知っていたのだ、黒い霧で姿を変えたモンスターたちが霧の外に出ていくのを。

 ならば、私たちだって、もしかしたら霧の外へとでれるかもしれない。

 そんな夢物語は、ずっと考えていたのだ。

 そう、黒い霧はいい訳なのだ。

 だけど、この地を離れれば、私たちは死ぬことは定め。

 不死の命に限りができる。

 それが私たちにかけられた呪い。

 神々から滅びし者にかけられた呪い。

 そのため……私は、カーナリアの手を取れなかった。

 怖かったんだ……

 しかも、私はカーナリアとは違う姿。

 人とは違う姿。

 恐れれられるのが怖かった。

 嫌われるのが怖かった。

 だから、この黒い霧の中でいれば、だれも私の姿を怖がるものなんていない。

 ココだと、誰にも嫌われずに済んだ……

 でも、私は一人だった。

 モンスターを作り出しても、みんな、霧の外に出ていってしまう。

 みんな人間の傍に近づこうとする。

 嫌われるのが分かっているのに。

 互いに憎しみあうと分かっているのに。

 そんな時、私から離れていったラブの感情が流れ込んできた。

 あたたかい感情。

 楽しい感情。

 嬉しい感情。

 愛おしいという感情。

 不死の命を捨ててまでラブが得たもの。

 私はうらやましかった……

 だから、ラブを真似して仲間を作った。

 ヒヨコを模して鳥のモンスターを作った。

 子猫を元に猫のモンスターを作った。

 アオダイショウに似せて蛇のモンスターを作った。

 ミドリガメと同じようなカメのモンスターを作った。

 でも、ラブのような感情は生まれなかった。

 なんで、ラブだけ……

 いつもラブだけ、ちやほやされる。

 いつもいつも。


 いつも私は一人っきり……

 一人っきりで、この地を守るのだ……

 一体いつまで……

 この地の封印を守って何になるんだ……

 不死であることに何の意味があるんだ……


 そうだ、みんな、モンスターになればいいんだ……

 そして、みんな、孤独になればいいんだ……

 みんなみんな一人ぼっち……

 そしたら、私だけ一人ぼっちじゃない……


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