第50話 お遊びはここまでだ(4)

 さて、本当の意味で裸一貫!

 タオルしかまいていない俺だ!

 仲間もいない、魔獣もいない。

 頼るのは俺の体のみ。

 だが、腐っても俺は騎士養成学校中等部主席!

 この命を代価にすれば、数分の時間ぐらいなら奪い取れるはず。


 俺は、大きく息をする。

 先ほどのピンクスライム雨のせいか。

 体の傷はほぼ完治している。

 なら全力で、ぶちかますのみ。


 俺は指で印を結ぶ。

 それに伴い体内の魔力回路を開け広げる。

 魔力回路とは体内の魔力が通る道である。

 だが、この魔力回路の太さには個人差がつきまとう。

 魔法使い系になるためには魔力回路が太くないと強力な魔法を放てないのである。

 グラスやキャンディはそういう面では、魔力回路が太いと言えよう。

 それに対してグラマディや俺は魔力回路は無いことはないがきわめて細いのだ。

 これは生まれながらの物だからどうしようもできない。

 と思うだろ。

 だが、俺は学校でいろいろな情報を独学で学んだのだ。

 母の想いを実行するかのように、俺は貪欲にあらゆるものを学んでいたのだ。

 当然、魔法の原理も学んだ。

 要は、魔力回路が細いところに大量の魔力を通すと、脳が命の危険を感じ自動的に回路を遮断するのである。

 まぁ、電気のブレーカーみたいなもんだな。

 だが、そのブレーカーをバイパスしてしまえば、魔力の放出は垂れ流し状態。

 命が続く限り放出できるのである。

 この情報は、俺が図書館でエロ本を探していた時に、古文書らしき雑誌に載っていたのだ。

 よくあるじゃん、エロ雑誌でページとページの間の広告みたいなやつ。

 昔のエロ雑誌も大して変わらんのよね。

 まぁ、ポーズが古風であったり髪型がちょっと今風でないということを除けば、後は、女体のつくりはほぼ同じ。

 そして、本の体裁もほぼ同じ!

 ならば、写真が色あせていたとしても、中身の情報は色あせない!

 古かろうが情報は情報!

 エロい物はエロい!

 使える物は使える!

 ということで、その中の一ページにあったのだ。

『これであなたも夜の魔法使い! 絶倫魔法でよがらせよう! 魔法回路のバイパスの仕方』


 こんなのガセやん! と思うだろ……

 俺も思ったよ。初めは。

 だが、俺は試したんだ。

 夜も更けたころ、一人密かに寄宿舎の壁に向かって魔法を唱える。

 俺は指で印を結び力を込める。

 そして、魔法を詠唱したんだ。

 途端に鼻から血が噴き出した。

 あかん、無理や……

 ぶっ倒れた俺の目は回っていた。


 そう、ピンクのハートがくるくると回る。

 壁に向かって透視魔法を唱えた俺。

 従来の俺の力では、壁を透視するなど不可能。

 だが、印を結んだ俺には見えた、

 湯気の中でアリエーヌが、自分の下乳を洗う姿がハッキリと。

 この印は、ホンマもんや……


 俺は風呂を覗く事にしか使ってこなかった。

 だが、その回数を重ねることにより、バイパスもどんどんと太くなっていた。

 やっぱり、こっちも使えば使うほど強くなるんだね。

 男の子だモン!

 でも、毎回、鼻血はブーでしたけどね。


 ということで、俺は今から、魔力回路をバイパスする。

 俺の体という毛穴から、魔力が噴き出している。

 ただ、条件反射と言うやつか……体に染みついた特性と言うものだろうか……下半身に巻いたタオルもまたテントを立てていた。

 今日はノゾキは無しだって……


 さて、お遊びはここまでだ!

 目の前の魔王が、先ほどから俺をにらみつけてイライラしているようなのだ。

 まぁ、このようなヒーロー特有の解説時には、敵役はそれが終わるのを待つというのは鉄則である。

 今か今かと、その時間を待っていた魔王の胸が、今、まさに発光した。

 無数の光が黒い空に線を描くと、空間を切り裂くように鋭利に曲がる。

 黒いキャンバスにまるで幾多の綺羅星が輝くかのような光の点が、矢の嵐となって俺を貫こうと降り注ぐ。


 だが、俺は慌てることなく手を伸ばす。

 体の前には光の障壁。

 黄色き火花をまき散らしながら、光の矢が次々と跳ね返っていく。

 さぁ! 今度は俺のターンだ!

 俺は唱える。


「天にまします我らが神よ

 刮目かつもくせよ!

 塵界じんかい蚕食さんしょくする凡愚ぼんぐ

 怠惰をむさぼり天に背く

 盟約に従いこの者たちに裁きを下せ!

 砕け! 砕け! 打ち砕け!

 天より降り注ぎし雷よ

 この世の悪を打ち砕け!

 降り落ちろ! いかづち系究極魔法!

 ライトニングハンマアァァァ」


 雷鳴とどろく天空よりまっすぐに打ち下ろされた大きないかづち

 そのいかづちが魔王に直撃した。

 魔王の絶叫が世界を震わす。


 行けるか!

 これならいけるか!


 だが、俺の口の横を生暖かい何かが流れて落ちた。

 それを手でこすり確認する。

 ちっ! 鼻血か……


 その瞬間、俺の体がピンクの光に包まれた。

 鼻血が勢いがピタリと止まる。

 足元を見ると、ピンクスライムが俺を心配そうに見上げていた。

「ラブ……生きていたのか……よかった……」

 俺の目からは、自然と涙がこぼれ落ちていた。

 だが、その体は恐ろしく小さくなっているのは見てすぐに分かった。


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