三
「オーイ」
珊瑚礁の美事な
キョロキョロしていると「コッチだよー」と悠揚な声がして、見ると青と黄に派手なのが岩の隙からヒラヒラ身を投げ出し、口を開けたままにニコニコ此方を見ている。
僕は恐る恐る近づいた……。
「ヤア、キミ……チョットいいかな。悪いね、急に呼び止めて……ボクはハナヒゲウツボだ……ああ……アンマリ怯えないでくれると助かるよ。取って喰ったりなんてしないさ……と、そんなことより、声を掛けたのは外でもない……見ない顔だから少し気になってね……ぜんたいキミは何という魚なんだい」
「エ……僕……サア……何なんでしょう……」
僕は答えることが出来なかった。自分が一体何者であるのか……魚であるということは確かだが……依然としてよく分からないのだ。考えれば考えるほど迷宮は深化して、
「オヤ……自分が何だか分らないのかい……アハハハハこりゃ参った。ボクが分らないのに当のキミさえ分らないとは……これはドウしようもない……ハハハハ、マイッタマイッタ……」
参っているのは寧ろこちらの方であったが、何だか面目ないような気持になった。
「スミマセン……」
「ナニ、マアいいじゃないか。それで……じゃあ、何処から来たんだい」
「それもよく分らなくて……気づいた時には泳いでいたものですから……」
と僕がまた
「アハハハハ……ナルホド……ウスウスそうだろうと思った。面白いね、キミ……イヨイヨ珍奇だね……ナルホド……では、サシズメ真に自分探しの旅……といったところかしらん……」
「自分探し……ハア……確かに、そうですね……」
ハナヒゲウツボの言に相槌を打ちながら、それが当てのない、またまるで往く先の見えないものであることが半ば直感的に推察せられて一抹の不安が過ったが、ハナヒゲウツボはそれを見透かしたらしく吻端のハナを
「マアそれならば、気楽に行くといいんじゃあないかナ……ゆっくりとね……そうだ、もしハコフグ博士に出逢えたなら、是非とも話をしてみるといい……我々魚類随一の該博なる御仁だ……何か得るものがあるかもしれない……」
「へェ……何処に居らっしゃるんです……そのハコフグ博士さんというのは」
「それは分らない」
「へェ……」
何だか有難そうな話であったが、カンジンのその御仁が何処に居るのかは分らないときて、少々拍子抜けしてしまった。しかし
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