意識をハッキリと定めた時、そこは水の中であった。僕は泳いでいた。背、胸、腹、尻、尾の各鰭を巧みに駆使し、泳いでいた。僕はサカナであった。そうして、それは違えようのない事実であったが、自分がサカナであることが認識された時、同時に自己の存在認識が何だかドウにも曖昧模糊として、水を摑むような、奇妙な感覚に囚われていた。

 僕は……サカナ……。

 いくら頭を捻ったところで、それは不変の事実として迫ってくる。しかし何故か一時いちどきに、元来僕は別のナニカだったのではないかというような気さえ起ってくる。そんな覚えは頭の片隅にも無いのだが、斯かる茫漠とした思いが心層の底部を流れて止まず、また決して判然と浮かび上がっては来ないのだ。

 ……イヨイヨ迷宮じみてきたぞ……。

 と頭をグルグルさせながら半ば流されるように当てもなく潜行していると、やがて突として目を見張るほどの大観が眼前を支配し、僕は茫然自失としてしまった。

 そこはまさしく花園であった。色も形も同じものは一つとして無いとばかりに、多種多様の花々が此方こちらでは幾多犇   ひしめき合い、彼方あちらではうずたかく幾重にも積み重なり、華采色めき広壮たる珊瑚礁を形成している。

 その景色は鮮華たる耀きと同時にどこか妖艶な気さえ醸していて、その気に魅せられ見入っているうちに、先刻さっきまでのモヤモヤとした心層の底流は刹那泡沫となってサッパリ消え去ってしまっていた。

 何気なく目に留まった、外側にり出すようにして伸び、幾重にも分岐して広がっている真赤な枝がユラユラと此方をさしまねいているように見えて、僕は殆ど吸い寄せられるようにその鮮彩な景色の中へフラフラと向かって行った。

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