アンダーカレント

傍野路石

 一艘の舟艇が滄溟そうめいく。白い尾をき、揺らめくさざなみをかきわけ颯爽と駆けてゆく。

 一点の雲もなく冴え渡り、海鳥たちが歌いながら悠々と飛び回る碧宇へきうの下、ただ真っ直ぐに横たわる水平線を臨み快走する白白たる舟艇は、沖に出るとまもなく徐々にその速力を緩め、やがて広大な滄海の直中ただなかにポツンと停止した。すると乗り込んでいた数人がゾロゾロと艇首に集まり、何やら準備をして二、三言交わすと、一人が白い砂みたようなものを海面に撒いた。次いで酒、水を撒布さっぷし、仕舞いには青青せいせい鮮やかなる花や花弁を投じる。そうして一連の行為を済ませると、艇上の皆は揃って瞑目し、なぎの海に臨んで暫く黙り込んだ。こうした一種儀式じみたものが如才なく執行されると、須臾しゅゆにして舟艇は再び動き出し、撒布点を囲うようにして旋回しながら、来た航路へきびすを返して行った。

 撒布せられた白い砂は海面を少しく濁らせながら次第に海と同化するように溶けてゆき、青い花弁は陽射しを受けて照り輝く漣にただ静かに揺れている。

 穏やかに凪いだ広大無辺たる紺青こんじょうの海とそれを見下す目映まばゆく澄みきった青天井。舟艇の去った後には、ただ一面の青い世界が広がっているばかりであった。

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