第15話 調査2日目

皆が起きてくる前に、新事実を含む内緒話を終えると、私は朝食の準備をする。

まあ、朝は転送したものを並べるだけなんだけど。盛り付けも重要だと思う。

そうこうしているうちに、皆が起きてきた。


「…おはよ、う」

アイシャは、まだ、眠そうだ。

「おはよう。随分と早く起きたんだな」

ヴォルさんはすっきりと目覚めている。その後ろからウィルが、ぬぼーっとした様子で現れ、挨拶もせずに食卓(簡易テーブルと椅子)へと座り込んだ。


「…飯」

「こら。挨拶が先だろう」

「はよ」

ヴォルフに叱られ、朝の挨拶を交わす。それから、全員で朝食をとった。



朝御飯を食べて、復活したのか、

「うん?昨夜の死骸を放っていたんだが、どうした?」

ウィルが、ハルキへと質問を投げかけた。

「はい。先程、処理いたしました」

「そうか…って、お前、いつの間に、そんなに流暢に喋れるようになったんだ?」

夜半、ハルキとともに外敵駆除を行っていたせいで寝ぼけ眼だったのに、すっきりと目覚めたようだ。

「つい先程、早希様から名前を頂いてから、このように、お喋り出来るようになりました」

「名前だって?」

「はい。ハルキと名付けていただきました」

すこしばかり誇らし気なのが、おかしい。


でも、待って。ハルキが流暢に喋るようになったと感じたのは、私だけではなかったみたい。やはり、彼自身が進化したのだ。

「昨日とは雲泥の差だ。名前一つで、こうも変わるのか…」

「あ、ほら!テレサだって、そうじゃない?学習したんだよ、きっと!」

「たった一晩でか?そりゃまた、恐ろしく高性能な機械だな」

「そ、そんなに変なことかな?だって、地球の生物だって、こんなにも変化してるんだよ?コンピューターだって進化するんだよ」

「まあ、テレサからして規格外だからな。こいつもテレサの端末の一部だから、そう、おかしいこともないか」

「そうそう」

「んん?メカ音痴のお前にしては、やけに食いつくな。他に何かあるのか?」

ギク!ウィルのくせに、鋭いな。

「だって、ほら!私が名付け親なわけだし!責任と言うか。そう!保護者みたいなものよ。これからは、ハルキの面倒は私が見るつもりだし!」

「オートマシンの一台や二台、私物化しても問題はないが。キューブに戻ってからも、そうするつもりなのか?」

「もちろん。ハルキは私の部屋で面倒をみるつもりよ」

「ふうん。まあ、勝手にしたらいいさ」

やったね!ウィルの気が逸れた。

しかし、私のルームメイトは人外ばかり増えていくな…。


「では!ハルキは僕の弟分ですね!」

コタが前屈みになって、ブンブンと尾を振りつつ、ハルキの周りを飛び回る。

「弟分…。はい、そうですね。よろしくお願いします!」

ハルキが照れたように、ジタバタと腕を振る。


何だろう。この、かわいい生物(機械)達は…。和むわー。


「…まるで機械に命が吹き込まれたみたい」

何気ないアイシャの言葉に、私はギクリとする。

「なあに?おかしなことを言ったかしら?」

私は、大きく頭を振った。下手に答えると、ボロが出そうで怖い。ウィルと違って、アイシャはものすごく鋭いからね。


彼女の疑問は、当たらずたも遠からずと言ったところだ。ハルキの基盤には、かつて、私の父親が同調していた。

「地球そのものも進化しているけれど、機械や動物も例外じゃないようね。

まるで、人だけが進化から取り残されているみたいなのが、気になるところね」

「そうか?俺達の存在そのものが、進化じゃないのか?」

ウィルが心外だと言う顔をする。

「もちろん。クローン技術の粋を極めたのが私達なのでしょうけれど。

けど、考えてみて。この中で、誰一人として、これまでの人間以上の能力を有して、誕生した者はいないわ。私が言いたいのは、そのことよ」

「何だよ?超能力の一つでも使えたらって思っているのか?」

茶化すようなウィルの言葉に、アイシャは冷静に返した。

「超能力もそうだけど、身体能力の向上ね。確かに、病気になりにくくなっているみたいだけど」

「それだって恩恵の一つだ。感謝すべきだ」

ヴォルフが重い口調で、言い諭す。

「感謝しているわよ。過去の私にはアレルギーがあったけれど、今は全く感じないもの」

「アレルギーって?」

「杉花粉のアレルギー。花粉症ね」

ああ!そう言えば、そうだった。まるで現代病のように、花粉症患者が増大していた頃に比べて、そうした兆候は一切みられない。

私だって、多少、症状があった。鼻水が止まらないとか、ね。


「天辺杉に程近い、この場所は、周りも杉の木が多いけど、有り難いことに私には全く、アレルギーが感じられないもの」

「確かにな。俺には花粉のアレルギーはなかったが、食べ物にアレルギーがあった。

それが綺麗さっぱり、失くなっていたな」

「何にしろ、全員が病気になりにくくて怪我をしにくい体にはなっているのは確かね。検証してないから、はっきりとは言えないけれど」

アイシャの関心が、ハルキから逸れてくれた様子で、私は内心、ほっとする。


多分、私は怖いのだ。皆と違うことが。私だけが特別だと思われるのも嫌だし、私だけが元のままだと思われるのも嫌なのだ。

アイシャの言うように、健康な体を手に入れたと言う点で違いはないのだけれど、この中で、私だけが、昔の私のままなのを、知られたくなかった。


「腹ごしらえも済んだことだし、そろそろ出発するぞ。今日こそは、天辺杉まで到達するからな」

ウィルの号令で皆が動き始める。やっぱり、彼はリーダーなのだと、私は思った。


初夏であり、位置的に暑さの厳しい地域であるはすなのに、それほど暑いとは感じられない。

「たぶん、湿度の違いじゃないかナ」

そんな私の疑問に答えてくれたのは、ヴォルさんだ。二人きりの時は日本語で話してくれるのだけれど、何故か、片言外国人ぽくなるのが不思議だ。

「日本の梅雨?そうしたものは、なかったネ?」

「あー、そうか。私はどうしても、昔の日本のイメージが強くて、沖縄は暑いって感じなんだよね」

「標高の違いヨ。ここは以前の陸地よりも標高が高いネ」

「標高…。なるほど」

夏に避暑地として高原に行ったりするのと同じ原理だろうか。

「標高が高くなると紫外線も強くなるネ。けれど、この地球の層は厚くて紫外線を容易には通さないヨ。よい方向に変化しているヨ」


かつての地球温暖化か。フロンガス破壊による、紫外線の影響は深刻だった。

「温室効果ガスかー。私達のやり残した課題の一つだね」


新しい地球を生かすか、壊すか。


人類は、こうしてやり直しをしたあとも、同じ間違いを犯すような愚かな真似はしたくない。


「人が増えれば、その分だけ、間違いを犯すものネ。それを間違いだと反省出来るか否か。自身の行いで示すしかないヨ」

大規模な森林伐採や焼き畑農業、工場や車の排煙、川や海への汚染などなど、人類は身勝手に便利さを追及した結果、逆に手痛いしっぺ返しを受けてきた。


「同じ間違いだけは犯したくないと、誰もが思う、そんな世界になればいいネ」

「そうですね」

隕石が落下しなくても、遠からず人間は地球で暮らせなくなっていた可能性が高い。

地球の浄化が間に合わなくなるほど、人は地球を汚し続けてきたからだ。

「今度は間違えないでいきたいですね」

「本当にネ」













  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る