第11話 使いこなそう
ウィルの特訓が始まった。とは言え、根本的に体力強化を行うものではない。今さらだし、どうがんばったところで私に格闘スキルが身に付くとは思えない。
「せっかく便利なものがあるんだ。活用しないでどうする」
そう、ウィルの指導はデバイスによる攻撃である。
防御に関しては全面的にデバイス頼りなのだが、攻撃に関しては持ち主の判断に任される。
「いいか。こう操作したら、刃となった風が敵を倒してくれる。それから、こちらは風の矢が発射される。多数を相手にするときは、こちらの方が有利だ。一度に数十発が打ち出されるからな」
「へえ〜。そうなんだ」
昔のように弾を込めたピストルとかではないんだね。
「あれは効率が悪いし、弾込めに時間がとられるだろう」
「ねえ。こないだカナブンを撃退した時に使っていたレーザーソードは?」
あれこそ、未来の武器って感じで格好良かった。
「…お前に剣術が使えるのか?」
ウィルから残念な子を見るような視線を投げかけられた。
すいません。使えません。
「俺は格闘全般を習得しているから、フェンシングもそうだが、日本の剣道も齧ったことがある。もちろん、熟練者には程遠いが。訓練で使える程度にはなっている」
ウィルの日課は、鍛練に始まり、鍛練に終わる。走ったり、筋力を鍛える基礎的なことから、デバイスを使用した訓練も含まれる。
それには時にヴォルさんも参加しているそうだ。今の人員で二人より戦える人はいない。颯介さんも防御に徹した戦いを主にしているし。
あと、以外にも戦える人物がもう一人いた。
「なってませんね。そんなことで調査団を名乗るだなんて、おこがましいですよ」
そう、アイシャである。彼女は、世界各国をまたにかけたフィールドリサーチを行っていた。そこは未開の地や治安の悪い所だってあるそうだ。
それ故に身につけた戦闘力なのだそうだ。
「お、アイシャか。今日はどうするんだ?」
戦闘仲間?であるウィルとは仲良しらしく、よく一緒にいるのを見かける。
「今朝は軽く走って来ます。河までの距離がちょうど良いですし」
ランニングウェア姿のアイシャはそんなことを言いながら、ストレッチを始めた。
いやいやいや、河までは十キロ近くありますよ?普通、車で移動する距離だ。
「私が帰ってくるまでに使えるようになっているといいですね」
爽やかな笑顔で嫌みともとれる発言を残し、アイシャはランニングへと向かって行った。
整備されたとは言え、怪虫の出現率はゼロではない。アイシャ自身が戦える故に、一人歩きが許されているのだ。
ちなみに全くの一人ではない。暇をもて余していたコタが軽快に追走している。
「主!ちょっと、走ってくるね!」
普段から一人(一匹)で散歩しているコタである。主である私がコタの散歩量に付き合えないせいだ。早々に一人散歩を満喫している。
しかし、たまには付き合うことにしている。ワンコはご主人との散歩が三度の飯より、大好きだからね。
「あいつらは勝手にやるだろうから、放っといていいだろ。
問題はお前だ!実技に入る前にきちんと使い方をマスターしろ!」
元々、メカ音痴でスマホでさえ、基本操作のみで終わっていた私である。
デバイスはスマホの進化系である。なかなかに難しい…。
私は説明を受けるまま、操作手順やら、使い方やらを覚えようと、ウィルの講義に必死についていった。
本日は実技まで進まなかった。操作メニューを覚えきれなかったせいだ。
「よし、分かった。お前はこれだけ覚えろ。あとはいい」
物覚えの悪い私に、終始、キレずに指導してくれた。この間、二人で出掛けた甲斐があったと言うものだ。
ウィルってば、成長したね。
翌日、私はひたすら一つの技を身に付けることに専念する。
私に与えられた戦闘スキルは、そのものズバリ『エアカッター』である。いわゆる、空気の刃だね。
無数の矢だと関係ないものを巻き込む恐れがあると判断されたらしい。
ポチポチッと画面を操作する。シュバッという効果音とともに、風の刃がダミーを破壊する。ホログラムで作り出したダミーエネミーである。
「重要なのは体の向きと腕の角度だ。あとは勝手に敵を倒してくれる。
お前がすべきことは、素早くデバイスを操作して、敵を捕捉することだ」
ライフルのようにデバイス上にスコープが出現する。私はそれに照準を合わせて、発射するのだ。簡単そうに見えて、それがなかなか、難しい。
「私が同調することも出来ますよ?」
上達しない私を見かねたのか、テレサがそう申し出た。
「駄目だ。常にあんたがこいつに構っていられる状況とは限らないだろう。あんたは幾つも回線を持っているが、無限じゃない。こいつだけ贔屓するのは許されない」
「それはそうですが…」
平常時でさえ、テレサは何百と分岐して、末端を操作している。だがそれは、平常時だから出来ることだ。もしもの際に、幾つも分かれていたら、処理能力に遅れが生じる。
「大丈夫だよ。一つだけ覚えたらいいんだから、訓練で何とかなると思う。今すぐは無理かも知れないけど」
調査団の出発は5日後を予定している。それまでに使いこなせるようになっておきたい。
「今だけでも…」
「テレサに頼ってばっかりじゃ、私は何も出来ない子になっちゃう。私は、そんな駄目な自分になりたくないの。だから、見守るだけにして」
「分かりました。けれど、気をつけて下さいね。エアカッターは、強力な武器なのだと十分に認識して使用してください」
「もちろん。そのための訓練でしょ?」
そんな私達のやり取りを少し離れた場所からウィルが満足そうな顔で見ていた。
私は、その時、気付いていなかったけれど、テレサが後から教えてくれたのだ。
今でも、皆におんぶに抱っこの私なのだ。これ以上、迷惑はかけられない。
そんな私の決意をウィルも喜んだのかも知れない。真相はどうなのか分からないけれど。それでも、私は嬉しいと感じた。
出発を翌日に控えた日のこと、私はまごつくことなくダミーを撃破出来た。
「わー!主、凄い!」
コタがキャッキャッと跳びはねる。
「ふう」
私も改心の結果に満足する。
「よくやった!」
ウィルが、パンッと手のひらを叩く。
今日は一対一ではなく、多数の敵が現れた際にきちんと反応出来るかどうかの試験をさせられた。一対一なら昨日は完璧とまではいかないが、十分に対応出来た。
今回は多数が相手だ。より高度な判断力を要求される。
「まあ、及第点って所だな。よく、頑張ったな」
ウィルが私の頭をくしゃりと撫でた。
「ん?どうしたんだ?」
「な、なんでもないス!」
私は言いながら、だーっとコタの元まで駆けていった。
それから、徐にしゃがみこんでコタを抱え込んだ。
男の人から、頭を撫でられるなんて、いつぶりだろうか。何か、照れるんですけど!
照れ隠しから、抱っこされたコタが嬉しそうにしっぽを振った。
「主!主!凄く格好良かったよ!」
言いながら、ペロペロされた。
うーん。癒される。
「おい!犬と遊んでないで、明日の準備をしっかりしておけよ!今度は物見遊山なんかじゃないんだ。犬も連れていくのは構わないが、ちゃんとトイレの躾はしておけよ」
はー。ウィルはやっぱり、ウィルだね。
「コタはこんなに賢いのに、おかしなお兄ちゃんだねえー」
「おい、聞こえているぞ!誰が、おかしなお兄ちゃんだ!」
もう、面倒くさいな。
その夜、私達は食堂に一斉に集められた。送別会ならぬ、激励を兼ねた夕食会らしかった。
一人、立ち上がった颯介さんが、この場を取り仕切る。
「さて、翌日、我々の中から選ばれた有志が未開の地へと調査に旅立ちます。
ウィル調査団長、ヴォルフ補佐、そして、団員の早希とアイシャの4人です」
名前を呼ばれた私達は座ったまま、頷いた。
すかさず、コタが、テーブルに前足をのせて、「僕も!僕も!」と、猛アピールをした。
「失礼。小太郎偵察員を含めた、4人と一匹ですね」
偵察員と紹介され嬉しかったのか、ちょこんとお座りをしたコタが、むふーと鼻息が荒い。
「それで、ささやかではありますが、出発前の英気を養っていただこうと、ご馳走を用意させていただきましたので、皆でいただきましょう!」
ご馳走って何だろう?今回、私は招待された側なので、夕食作りに関わっていない。
「フランの指揮の元、今までにないメニューを用意しました」
オートマシンがカラコロ音をたてながら、やって来た。何でも上手に運ぶことの出来る伸縮性に富んだ腕で、大きなお皿をテーブルへと運んで来る。
大皿には蓋が被せてあり、中身は分からないけれど、嫌な予感がした。
大皿は合計3つ、2人で一つの計算である。
そして、目の前の皿から蓋が外された。
「ぎゃあああああ!」
私は絶叫する。
やはりと言おうか、皿に盛られていたのはウナギもどきであった。
しかも、姿煮。せめて、頭だけは!とっておいて欲しかった!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます