第31話 愛央とあいちゃんと卒業式

愛央の髪型は基本2種類。ハーフアップとポニーテール。応援する時はハーフアップ、普通の日はポニーテールと愛央自身で決めているようだ。


3月6日金曜日。いつものようなチアリーダーとは違った装いで愛央は朝を迎えた。朝から髪を巻いて、ハーフアップを作った後はなんと珍しく長めのチュールスカートを履いて、制服と合わせた。


いつも見なれている愛央なのにここまで変わるとは思っていない俺は愛央が甘えてきたあたりで聞くことにした。


あお「たっきゅん」

たく「あに?」

あお「今日卒業式だから、こんな感じで行こうかなって思うんだけど・・・」

たく「・・・だから朝からそんなに可愛いのか。いいよ。それで行こう」


正直言って、俺は癇癪かんしゃくをまさか今日に限って起こさないかが不安だった。でも愛央が抱きついて、不安を解消させてくれたから、起きなかった。


チュールスカートがふわっと広がるのを男子が見るとドキッとする。これがまだ普通の他人なら多少良いが、それが妹の関係になると余計にドキってするのだ。今日の愛央の可愛さは他の男子から見ても俺と愛央は彼氏彼女に見えておかしくない。でも実際は双子の兄妹ということになるのだ。


普通、女子は彼氏でもない限り、関わる人は少ないはず。妹にだって嫌われる人が多いであろう。しかし、うちの琴乃愛央と琴乃愛華は違い、何かあると必ず頼らなければならないと考えているはず。だから愛央もあいちゃんもぎゅーって抱きついたり、色々聞いたりしているのだ。将来2人が家を出る時があるかもしれない。でもそんな時でも俺は2人を見守ってあげられる唯一の存在だと思っている。


朝の7時にあいちゃんがぷかぷか飛んで俺に飛びつく。これが毎朝の光景。1歳児でここまで起きれるなんて普通はなかなかない。


あい「にーにー、ねーねー、おはよー!」

あお「あいちゃ〜ん!!おはよう!」

たく「起きた起きた。よく寝た?」

あい「あい!へへっ///」


愛央は普段ならこの辺りでチアをやり始めるが、今日は卒業式ということもあり、清楚な乙女感を朝から出していた。俺はいつものように着替え、編集を10分やってから家を出ることにしている。編集の間は愛央がポンポンを振って普通なら応援する。でも今日は横にずっと居ただけだった。あいちゃんはいつものように、「にーにー、だっこー」と言って編集デスクに座るのだ。7時30分頃になるとあいちゃんが「にーにーいくー」と言い出すのでその辺で学校へ行くのだ。


学校に行き始めた頃はあいちゃんも安定しなかったのか、ぐずり出したり怖くなって大泣きしたりということがたまにあった。でも今は授業中に、俺の席で授業を頑張って聞くように変わっている。もちろん難しいことを赤ちゃんに教える訳にもいかないので、俺のスマホだけは常時使えるようにさせてもらった。あいちゃんは動画を見てるだけ。それで分からない言葉を俺が教えるようにしたのだ。


卒業式はあいちゃんも大人しくしないといけない。それは儀式だし、式典だから当然のことだが。でも俺の妹とはいえ、静かにさせるのは少し難しいはず。俺はあいちゃんに伝えてみた。


たく「あいちゃん」

あい「きゅぴ?」

たく「今日ね、卒業式って言って静かにしなきゃいけない時があるんだ」

あい「ねーねー、あいたん静かにしなきゃだめ?」

あお「うん・・・ごめんね。あいちゃんってずーっと遊びたいもんね」

あい「ひっく・・・」

たく「あー・・・やっぱりダメかぁ・・・じゃあ、動画見せてあげるから静かにしようね」

あい「あい!」


動画を見せることを条件に静かにしていられるらしい。あいちゃんは静かにする時は静かにしてくれるので安心して式に臨める。愛央にだっこさせてあげると次第に寝てしまった。お昼寝の時間にしておく方が一番いい。


2時間の式典は無事終わり、教室に帰ってきたあたりであいちゃんがぐずり出した。お昼寝から目覚めたようで、ミルクが欲しくなったのだろう。


あい「ひっく・・・うっ・・・」

たく「あーこらおいねぇ予感がする」

あお「愛央、初めてあいちゃんにミルク作ったの!飲ませていい?」

たく「いいよ。飲ませてあげて」

あい「ひっく・・・あぶ?きゅぴきゅぴきゅぴ」

あお「すごい!早い!」

たく「愛央のミルクが美味く感じるのか?」


あいちゃんにとって、愛央は大好きなママって思っているらしい。だからミルクが美味く感じるのだろう。あいちゃんは愛央の作ったミルクを飲むのはほぼ初めて。だから余計に美味しいはず。


卒業式を終え家に帰ってくるとあいちゃんは愛央に抱きついて、その後俺にも抱きついてきた。


あい「にーにー、ごはんー」

たく「ちょっと待ってね」

あお「愛央手伝うよ」

たく「飯炊けてねぇんだ」

あお「それじゃあ・・・待つしかないね」

あい「がんばゆ!」

たく「お!すごい!」


あいちゃん、昔は我慢できなかったのに、よく成長したなと思う。ご飯を作って食べさせると、あいちゃんは「たいこ!あしょぶ!」と言った。うちにたいこあっぺなぁ?と思ったが、見つかったので出してあげた。


あい「あい!あい!へへっ///」

あお「楽しい?」

あい「あーいー!」

たく「よかったよかった。それ実はな、愛央が使ってたヤツなんだよ」

あい「ねーねーの?」

あお「愛央遊んだっけ?」

たく「うん」


あいちゃんはそろそろお姉ちゃんの愛央の手伝いをし始めるかも。そうなった時、俺らの役目はまずやらせてあげることを優先しようと思った時だった。


あいちゃんはたいこで遊ぶとその勢いで俺のところに飛んできた。


あい「にーにー!あしょんで〜!」

たく「わかったわかった今行くから」


甘えは相変わらずだね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る