第18話 Put your thoughts on Tarte Tatin
タルト・タタン。俺の好きな洋菓子のひとつだ。
そして、俺の好きな歌の曲名でもある。
17話タイトルの『いつかはきっと』はこの曲の最後の歌詞であり、愛央はそこに想いを込めたのだった。
今日は6月17日日曜日。そのタルト・タタンを作ろうと思い、朝っぱらから愛央とあいちゃんを連れて3人で買い出しに出かけようとした。今日はバイトがあるので、少しの間俺と愛央は離れ離れになる。泣きそうな顔を毎度してしまう愛央に、今日はタルト・タタンを振る舞うことにしたのだ。
毎日恒例のチアを披露しようとする愛央だが今日はいつもより遅かった。髪で悩んでいたのだろう。俺はすぐに
あお「たっくん、バイトの時間だいじょうぶ?」
たく「17時からだからまだ大丈夫」
あお「ハーフアップ作るの手伝って」
たく「いいよ、終わったら買い物行くよ」
ハーフアップが出来るといつもの元気を取り戻した愛央は早速デートチアをやろうとした。
白色のブラウスに白色のボリューミーなチュールスカート。そしてレアな白色のポンポン。白に身を包んだ愛央はその姿で応援した。
あお「ふれ♪ふれ♪わたしっ♪フレ!フレ!たっくん、ふぁいと!ふぁいと!たっくん!」
純粋に言って可愛い。女の子らしさとチアリーダーらしさがかけ合わさるとこんなに可愛くなるとは思っていない。こう思っているうちに愛央は部屋にポンポンをしまい、早速出かけようとした。
愛央の靴は基本運動靴だが、こういうお出かけやデートの時はスカートに合うブーツとかパンプスを履く。そうして乙女感を演出しているのだ。
彼女感丸出しだがこれだけは言わせてくれ。
琴乃愛央は双子の妹であり、彼女ではない。
ハーフアップの髪を揺らして歩く愛央とまともなダサ男の俺はショッピングモールに着く2分前にあいちゃんがぐずり出してしまいそうな雰囲気になってしまった。時刻は11時30分。ミルクの時間だ。
あい「うっ、ひっ、うっ、あぶ・・・」
あお「あいちゃん・・・」
たく「ミルクだなぁ・・・あったかなぁ?」
あい「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!!」
あお「たっくん!どうしよう!!!」
たく「だーしたがねぇって、っしゃあったぁー」
あい「うわぁぁぁ・・・あぷぁ、あぷぁ」
あお「よかったー」
たく「っぶねぇマジギリセー」
あい「きゅぱぁ・・・きゅぴ〜」
愛央はお出かけの時、彼女感を出してはいるものの、実はあいちゃんの世話は本当にあやすだけしか出来ない。ミルクとかは作れないので、俺が事前に作った上で哺乳瓶と水筒を持ち歩いている。いつミルクになるかいつオムツ替えとかになるか分からないから。
実は俺がいちばん自慢できる妹の可愛い愛央でも、チアをやる前は俺の後ろで見ていることが多かった。泣き虫で怖がりだった。恥ずかしながら、俺も泣き虫怖がりのチキンだった。でも愛央は怖い時に必ず俺を頼る。15になった今でもそれは変わらないが、愛央は昔こう言っていた。
あお「たっくん、あお・・・怖い・・・」
たく「僕も怖いよ・・・」
あお「たっくん・・・あお守って」
たく「・・・わかった。愛央は必ず守るね」
そう、俺は6歳小学1年生で泣き虫怖がりをなんと克服してしまったのだ。愛央が泣いている中、守れるのは俺一人しかいないと思ったから。
今の愛央には出来ないことが俺より少ないもののあるにはある。そこで俺は愛央にその想いをタルトタタンにするという作戦だ。
普通のタルト・タタンに、愛央の元気で可愛い赤のチアユニフォームをイメージしたシナモン風味とりんごをのせて、白いポンポンをイメージしたホイップクリームをつける。そして真ん中に、甘酸っぱい特大サイズのいちごを1個乗せ、さらに手紙を書いておく作戦。完全に愛央を泣かせるつもりだ。
買い物を終えた俺と愛央とあいちゃんは家に帰ってきて、あいちゃんと愛央はお昼寝。俺はタルトタタンの調理に入った。そこから4時間かけてタルト・タタンは完成。バイトが始まる1時間前に出来て良かったと思いながらバイトの準備をしてバイト先へ行く。
20時に俺のバイト先の店は閉店するので急いで終えて帰る。琴乃家までは徒歩5分。速攻で終えて帰らないと愛央たちが退屈してしまう。家に帰るとやっぱり不安な顔を作っていたであろう愛央たちが待っていた。
あお「おかえり!たっくん!」
あい「きゅぴ〜!にーにーおかえりー!」
たく「ただいま。さぁ、食べようか」
あお「何を?」
たく「冷蔵庫にとっておきのものを作っておいた。開けてみて。愛央」
あお「うん!何かなぁ?」
開けた愛央は驚いた。そしてあいちゃんも驚いた。
あお「たっくん、これすごい!」
あい「きゅぴ?わぁ〜、しゅごーい!!!」
たく「4時間かけて作った、タルト・タタン アップルシナモンチア風味。愛央、食べてみて」
あお「アップルシナモンチア風味?」
たく「愛央がチア習っていた時のことをね、思い出してさ。それで、アップルシナモンにチア風味のこだわりを乗せた、特製のタルトタタンよ」
あお「これ、なに?」
たく「てがみっ。開けてみて」
あお「うん!えーっと、琴乃愛央へ。どう?驚いた?愛央と出会って15年。双子で暮らして随分長い生活をしてきたね。俺はいつも愛央に助けられて来た。ありがとう。愛央は今、料理とかできる?俺よりは出来ないことが少ないはず。愛央は将来お嫁に行くことになるかもしれない。その時怖がったりしたらどう思われるかな?不安かもしれない。でも、愛央は愛央だから、自信を持って。愛央は体育祭で頑張って応援団をやったでしょ?その時の輝きは今まで以上に凄かった。自信を持ってやるのは愛央にとって恥ずかしいかもしれないけど、大丈夫、愛央にとって出来ることを増やして、いい子になってね。琴乃匠」
たく「やっぱり。愛央泣き始めた」
あお「こんなの書かれたら愛央泣くって〜!」
たく「泣いてるとタルトが無くなるよ。食べよう」
あお「うん」
愛央は大泣きしていた。さすがにやりすぎたかな。タルトを食べる愛央はどんな気持ちでいるか、それはさすがに分からないけど、美味しそうに食べてくれるのはうれしかった。
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