第4話 城塞都市アグニオン

あれから半日ほど歩き俺たちはエレナの父親が治めているという街、城塞都市アグニオンに到着した。


「どう?これが私のお父様が治める街、アグニオンよ!」

「おぉ、確かにこれは凄いな」


街全体が八角形の壁に囲まれており、東西南北にはそれぞれ大門が設置され、大門からは大きな道が街の中心に向かってのびていて、そこから枝分かれするように小道が続いている。

街を両断するように川が流れており、そこからいくつもの支流が血管のように街全体に流れていた。

白いレンガ造りの建物が所狭しと立ち並び、街の中央付近には立派な教会らしき建物や、かなり大きめの建物がいくつも建てられている。

そして何よりも目を引くのは中心に立つ立派な城だった。


ここアグニオンはティオラス王国の西側に位置するハーメン領の領都で、貿易が盛んに行われ1年を通して大通りには市場が立ち並び、ここでしか手に入らない特産品や名産品が数多く売られている。


ここに来るまでに散々エレナから街の話を聞いたが、これは自慢したくなるのも頷ける。


「さぁ!大門までもう少しよ!さっさと行きましょう!」


どうやら俺たちが目指す門は、街の東側の大門のようだ。

門に着くとそこには長い行列ができていた。

街に入る門には厳重な警備が敷かれているようで、1人1人に街へ来た目的なんかを聞いたり、馬車の積荷を調べたりしているみたいだ。


「すごい行列だな。いつもこんなに並んでるのか?」

「おかしいわね?収穫祭の時期ならこのくらい並ぶんだけど今はまだ時期が早いわ。何かあったのかしら?」


そういいエレナは首を傾げる。

俺は列に並んでいた商人っぽい人に話を聞いてみることにした。


「すいません。ちょっとお聞きしたいんですが」

「お?なんだい兄ちゃん。ウチの商品に興味があるのかい?」

「あ、いえ。この行列の事を聞きたくて」

「あぁその事か、なんでも領主様の1人娘が今朝方いなくなってたらしくてな。一応置手紙はあったらしいんだが、万が一の事があっては大変だと領主様が街の出入りを厳しく制限したんだ。おかげでこの有様さ」


商人はなんだ客じゃないのかと笑顔をやめ無愛想ながらも答えてくれた。


「ソウナンデスネ。アリガトウゴザイマシタ」


商人に礼を言い、急いでエレナの元に戻る。


「おい!エレナお前許可をとらずに街から出てきたのか!一応お嬢様なんだろ!?」

「そうよ!だってお父様に言っても止められるじゃない!」

「この行列お前のせいでできてるみたいだぞ!どうすんだよ!?」

「あら、寄り道しようと思ってたけど、それならさっさと私の家に行きましょうか!」

「え?並ばないのか?」

「いいからさっさと行きましょう!私がいればあの門も通れるし、この行列も解消されるはずよ!」

「おい!ちょっと待てよ!」


エレナは俺の腕を引き行列の横を通って大門まで向かう。日本人のさがなのか、並んでる人達からの目線がすごく気になる。


どうしよう。エレナって一応お嬢様らしいし、無断で外出したみたいだから俺が誘拐犯みたいな誤解をされないか心配だ。

仕方ない、ここは空気になって場をやり過ごそう!


そんな事を考えていたらあっという間に門の前に着いてしまった。

警備していた兵士がこちらの存在に気付き、エレナの顔を見た途端慌てて飛んできた。


「お嬢様!護衛も付けづに一体どこに行っておられたのですか!?皆心配していたのですよ!」

「ちょっと散歩に出かけていただけよ!」

「それは無理があるだろ!?」


しまった!出来るだけ空気に徹するつもりがついツッコミをいれてしまった!


「そちらの方は?」

「リュートよ!森で迷子になっていたから助けてあげたのよ!ねっ!」

「ふむ、迷子?近隣の村の子ですか?」

「それが記憶がないみたいなのよ!だからしばらく私の家で面倒見てあげることにしたの!」


あれ?そんな話だったっけ?確かに迷子になっていたと言えなくもないけど。

とりあえずここは話を合わせておくか。


「初めまして、リュートと言います。森で彷徨っている所を助けて頂きました。エレナ様にはとても感謝しています」

「そうかそうか!若いのに大変だったね!この街は良い街だから気にいると思うよ!はやく記憶が戻るといいね!」


なんだ?さっきまで胡散臭い物を見る目をしていたのに急にフレンドリーになったぞ?


「私は一足先に領主様や他の門の警備にお嬢様がお戻りになった報告をしなくてはいけないので失礼します」

「ご苦労さま!警備の皆に心配かけて悪かったと伝えておいて頂戴!」

「おぉ、皆喜ぶことでしょう!では!」


俺たちと話していた兵士は馬を駆ってどこかへ行ってしまった。


「さ!行きましょうリュート!まずは私の家ね!」


エレナは我が物顔で門をくぐりどんどん先に行ってしまうので慌てて追いかける。


「なぁ、さっきのは何だったんだ?」

「何って?」

「ほら、俺が森で彷徨っていたとか、兵士の人が急に気さくな態度になったのとか」

「あぁそれね!彷徨っていたことにしたのは怪しまれないためね!トイレのドアをくぐったら森の中だったなんて言ったら怪しまれるもの!それと、兵士の態度が良くなったのは貴方が私を褒めたからね!」


「はい?」


「お父様が私を猫可愛がりしてるのは教えたでしょう?いつの間にかこの街の兵士全体にもそれが広がっちゃっててね」

「だから俺がエレナに感謝してるって言っただけで急に態度がよくなったと?」

「ええ」

「マジか...」

「マジよ!」


この街の警備が心配になったがエレナが言うには、ここの兵士はかなりの腕利きぞろいで王国の中でもいちにを争うほど優秀なそうだ。

本当かどうか疑わしい。


門から伸びる大通りには露天商が立ち並び活気があふれている。

どうやら街の東側の地区は王都からの旅人がよく利用するようで、宿屋や旅に必要な物を売っている店が多いみたいだ。

競うように声を張り上げ客引きをしている露天商達のほとんどは、よその街や村からわざわざ物を売りに来た人達らしい。


街の中心に近づくにつれて辺りには飲食店の様な店や服を売っている店が多くなってきた。

きょろきょろと異世界の街並みを堪能していると正面に大きな教会のような建物が見えてきた。


「エレナ、あの建物はなんなんだ?」

「あれは精霊教会よ!この国で一番大きな教会なんだから!」

「精霊教会?」

「あんたまさか精霊教会も知らないの!?どんな暮らしをしてたらそんな世間知らずになるのよ!本当に記憶喪失なんじゃない?」

「違うわ!で?その精霊教会ってのはなんなんだよ?無知な俺にも分かるように説明してくれ」


「そんな言い方しなくたって教えるわよ。精霊教会は名前の通り精霊教の教会ね。簡単に言うと魔力を信仰している宗教よ!魔力は精霊様が与えて下さった力だからみんな精霊様に感謝しましょうねって教えね!」

「そういう言い方をするって事はエレナは精霊教を信じてないのか?」


「ええ、だって私の魔力は努力で積み重ねて得たものだもの!それをあいつら「精霊様に好かれているのですね」の一言で片づけるのよ!?腹立つったらないわ!」


どうやら精霊教とやらに相当溜まっていたみたいだ。

というかさっきその精霊教会の建物を誇らしげに紹介してたような。

余計な事を言うと後が怖いので口にはださないでおく。


「着いたわ!ここが私の家よ!」


エレナが指さした先には家、と言うか城がそびえたっていた。

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