第3話 出発
「それじゃああんたはトイレしようとしたら森にいたって言うの?」
「だからさっきから何度も言ってるだろ!本当に気が付いたらあの森にいたんだよ!」
現在俺たちは森から少し離れた平原で休憩していた。
あれからエレナと森の中を歩き、ホブゴブリンから逃げる時に置いてきたという荷
物を取りに行った。
残念ながら食料は動物に食い荒らされていたがテントやその他の道具は無事だったので回収することができた。
今は森から少し離れた小川でなぜ俺が森の中にいたのかを離していた。
「ふん!まぁいいわ!本当の事を言う気になったら話してちょうだい!」
「本当のことを言ってるんだけどなぁ」
エレナには異世界からきたということは伏せ、トイレに入ったら森にいたと言ってある。
どうやら唐突に転移したなんて話は異世界でもなかなか聞かないらしく半信半疑のようだ。
「で?あんたこれからどうするのよ!」
「...考えてなかったな」
ここが異世界なのは確定として、これから俺はどうすればいいんだ?帰る方法を探すか?帰る方法なんてあるんだろうか?
いや、そもそも俺は元の世界に帰りたいのか?
好きな漫画やアニメの続きが見れないのは残念だけど、それだけだな。
「行く当てがないなら私の家にしばらく滞在するといいわ!」
「いや、そんな事言ってもお前...」
「いいのよ!私の家は貴族なのよ?あんたはその私の命の恩人なの!お父様も邪険にはしないはずよ!」
「本当にいいのか?自分で言うのもなんだが、俺ってかなり怪しいぞ?そんな人間を家に招待するなんて」
「良いって言ってるでしょ!それにあんたを見てたらなんだかワクワクすんのよ!これから楽しいことが始まりそうな予感っていうの?だから私は私の直感を信じるわ!」
エレナはニカッと満面の笑みを浮かべた。
「それに命の恩人を野垂れ死にさせるような恩知らずにはなりたくないわ!」
それだけ言うと照れくささを隠すようにそっぽを向いてしまった。
なんだか真正面から命の恩人と呼ばれて俺も気恥ずかしくなってきた。
俺とエレナの間に少しの沈黙が流れた。
「そ、それじゃあ今後の方針を固めるまではエレナの家で世話になろうかな」
「え、ええ!それがいいわ!」
若干妙な空気になったが、ひとまず俺はエレナの家に滞在することになった。
「ところでエレナは貴族なんだろ?なんでこんな森に1人でいたんだ?」
「それは…」
なにやら言い淀むエレナ。
「何か言えないようなことなのか?」
「そういう訳じゃないけど…はぁ」
何かを諦めたようにため息を吐くと森に1人で来ていた理由を話してくれた。
まとめるとこうだ。
エレナの父はそれはそれは娘を可愛がっているのだが、その娘が15歳になったら王都にある学校に通いたいと言ってきた。娘と離れ離れになるのが嫌だった父はそれを却下。
エレナは己の実力を示せば父も入学を許可してくれるだろうとゴブリンを狩りに来たのだが、ゴブリンの集団を倒した後に運悪くホブゴブリンと出くわしてしまい逃げていたそうだ。
なんとういうか、エレナの父も父だがエレナもエレナだ。
入学を却下されたので、実力を示せば許可がおりると考えるその脳みそは筋肉で出来てるんだろうか?
「それって結局、実力を証明しても親父さんが許可をだしてくれるか分からなくないか?」
「お父様は何よりも武を重視しているわ!私が実力を示せば絶対に入学を許可してくれるはずよ!」
どうやら親子揃って脳筋だったらしい。
ふむ、学校か。そういえば俺も高校受験を控えた学生だったんだよな。あれ?ってことはエレナと俺って同い年なのか?
「その学校って俺みたいな一般市民でも入れるのか?」
「リュートも学校に興味があるの!?」
エレナは身を乗り出してキラキラした目を向けてきた。
「あ、あぁ。ちょっと興味があってな」
「それなら一緒に通いましょう!!リュートは私の命の恩人なんだもの!お父様だって入学金ぐらい払ってくれるわ!」
そこまでしてもらうのは流石に申し訳ない気がするが、何はともあれエレナの親父さんと話してみないとな。なにせ滞在も許可をもらったわけではないのだ。
「とりあえず街に向かおう。それからの話は実際にエレナの親父さんと話し合いながら決めよう」
「リュートがそれでいいならいいわよ!お父様もリュートを気に入るはずよ!魔力強化も凄かったし!」
ん?魔力強化?よく分からない単語が出てきたけどとりあえずスルーしておく。
「じゃあ休憩もここら辺にして街に向かおうか」
「分かったわ!街まではあの丘に見えている街道をまっすぐ行けば着くわ!行きましょう!」
そうして俺たちは歩き出すのだった。
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