第4話 乗船式
父レオポルドに南朝への留学の許可を切り出した。エレーナ様であったが、旦那様の反応は厳しいものであった。
「お父様、女ではありますが、当主ではございません。それに・・・」エレーナが言い終わる前に「貴族院で良いではないか』とレオポルドが言った。ザドには貴族のための学習機関があり、そこでは基本的な勉学や貴族の習慣やマナーや修辞法について学ぶことになっている。大体13歳の歳に入り、長くて20歳まで学ぶことができる。貴族同士の横の繋がりもここで得られる。留学は主に貴族の嫡子以外のものが行くことが常であり、その後は家を離れるもの入れば、居候のような形で、細々と残るものもいた。
「その女ですからですわ、留学し見聞を広めれば、女と言って軽んぜられるようなこと少なくなりましょう。このザド家のために必要なことです。」とエレーナが言った。
「お前が、そこまで考えてくれるのは嬉しいが・・・しかし、」レオポルドは少し言葉に詰まった。「許可はできぬ。」
「・・・」エレーナはじっと父の目を見つめる。
しばらく沈黙が流れたが、エドが口を開いた。
「旦那様、エレーナ様、差し出がましいようですが、いますぐに答えが出るものではありますまい、後の予定のも控えておりますので、この件はまた後日としてはいかがでしょうか?」
しばらく、目を見たままだったが「そうしよう、この話は乗船式の日程が無事に済んで居館に戻ってからにしよう。いいなエレーナ?」
「かしこまりました。お父様。」とエレーナが目線を下にして返事した。
2.船内の見学
その日の午後は操舵室にて、エレーナは乗組の紹介を受けることになっていた。
流石に広い船内をドレスでは動けないと、動きやすいズボンに着替えていた。
女性用の、航海服というものがなかったので、乗馬用のキュロットパンツに革製の長靴に上は白のブラウスに茶のベストというなりで、お嬢様の軽快さ、しなやかさとよくあっていた。
「エレーナ様、こちらが副船長のブレッダ殿です。航路の選択や重要な決定を下す立場にあります。」とエドがから説明を受けると
「ごきげんよう。ブレッダ様。今朝はお見苦しいところお見せして申し訳ありませんでした。」エレーナは今朝の件を詫びた。
「とんでもない。お元気そうでなによりです。」相変わらずの収まりの悪い金髪を何んとか納めた航海帽の唾を軽く上げて挨拶をした。
もちろん貴族相手にこの挨拶は不敬であるが、航海中の船舶において、船長が最高位でありブレッダが問われることはない。
このため、副船長として、ほとんど乗ることない党首を船長とするのはこのためである。ただ、この男な場合は、たとえ陸でもそういった儀礼は最小限であったし、当主のレオポルドも全く気にしていない。
「あちらの白髪の男が、航海士のジェロ、この船一番の古株でまさに生きた航路図と言っていい。操舵室には大体こんな感じだ。あとは、船内を駆けずっている。」ブレッダが説明する。
「皆さんの働きはいかがですか?」
「全く申し分ない連中です。気持ちの良い男たちばかりですよ。」と分レッダが笑うと「まあそれは心強いですわ。」とエレーナも笑った。
エドはその笑いにまたも、怪しげな雰囲気を感じ取った。
「それにしてもこれだけの大きさの船にしては帆少ないのではないでしょうか?」と
尋ねる。
「ご存知の通りこのエウレ海は全く荒れないし、ほとんどが凪ですからな。速度が出せんのです。」とブレッダが甲板の下を覗き込むような姿勢で「速度が無ければ、船便の利点がありませんので、船足はほとんどオールによる人力ですな」答えた。
「まあそれでは、あまりに大変ではありませんか?」とエレーナが驚いたように尋ねる。「そうでしょうな。奴隷で無ければあんなことは無理でしょう。ですがエレーナ様が気に留めるようなことではありません。」とブレッダはきっぱり断言するような言い方をした。
「エド、本日の予定に漕ぎ手の見学を加えてください。」とこちらもキッパリと言い切る。
どうして、こう余計なことに首を突っ込むのかと、私は困って言った。
「お嬢様、ブレッダ殿が言われたように我々の仕事ではありませんよ。それに今日は時間もあまりありませので」奴隷を見たいなどと以前のお嬢様からは想像もできない。
「エド、これは次期船長たる私の大切なお仕事です。時間がないというなら、当主の仕事である酒宴の欠席しても構いませんのよ。」
また、随分なことを言い出した。酒席のホストは当主である。しかし次期船長は未来の役職であり筋違いな理由付けであった。しかし、こうも言い切られると反論する気も起きなかった。
「わかりました。しかし、その格好では不測の事態になった時に危険が及ぶかもしれません。ふさわしい服装にお召し替えいたしましょう。」とお嬢様に伝える。
「今の服装でも十分不測の事態に対応できるわよ。まさか、銃だの剣だのを持っていくことはないでしょう。」とお嬢様が言ったが、そうゆうことではない奴隷に女性など見せてはどうなることか、僅かに残った理性のタガも外れて襲いかかってくるのであるまいか?男装もしくわ顔や姿が見えにくようにした方がいいのでは・・・
「女の私をみた瞬間に、狂人となって襲いかかってくるとでも考えているの?」お嬢様が私の考えを椅子貸したように言う。
「奴隷を人とも思わない扱いをして、追い込み追い立てる。その一方で報復を恐れ怯える。その程度の覚悟であれば、人の恨みは買わないことね。エド」
お嬢様の言葉に、何もいうことができなかった。正論だとも思ったし、昨日までのお嬢様であれば子供っぽい部分があって、言い含めることもできたであろう。
お嬢様の口からでた「覚悟」という言葉に衝撃を受けてしまった。
それでも私は「それでは荷室を見学後に行くことにしましょう。」なんとか返事をした。
「それでしたら、カールをお付けしましょう。彼は奴隷たちの看守をしていますので何かと役に立つでしょう。」とブレッダが口添えた。
なぜ?荷室の説明を聞きながそう思う。
間違いなくお嬢様は奴隷など関心を示したりなさったことなど今の一度もなかったのだ。
荷室は喫水域の下にあって船全体のバランスをとる役目もある。なので基本的には何か必ずにを積んでいる。今回はザッド特産のチーズやワインを満載している。
殊にワインは南朝でも人気があり、上流階級を中心に高値で取引されており、ザッドの貴重な収入源となっている。
そして、奴隷どものいる部分は荷室の直上であった。
荷室の奥に頑丈な扉、貴重な鉄で補強を施された扉であった。閂が二箇所もあり異様な雰囲気がありこの先が別世界であることを伝えていた。
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