お茶のお時間


エドは トレードマークの口髭を仕上げているとエッタの声が聞こえてくる。

船それも使用人や乗組員の階層であるので、防音など望めるものではない。悪いとは思いながらも、聞こえてくる声に耳を傾ける。


「まあ、あまりお召し上がりにならなかったのですね。お口に合いませんでしたか?」

_驚いたようなエッタの声が聞こえた_。通常の船旅なら保存食ばかりで塩辛いしはっきり言えばろくなものではが、この乗船式に限ってはほぼ貴族の食事のとして遜色のないものが出る。

新鮮とは言えないまでも、野菜や果物も用意されていた。おそらくエッタの用意したものパンや果物、塩豚のローストなどいつもと変わらないものであろう。

_お腹がすいた。_と仰っていただけにエドは違和感を覚えた。

「やはり、まだお体が悪いのではないだろうか?」との思いが口に出た。


朝の用意が一通り終わったところで、エドも食事を取るため給仕室へ行き固焼きのパンと塩豚のロースト、茹で卵とチーズ簡単な食事を摂った。その後、食後のお茶の準備をしてからエレーナ様の部屋に向かう。


普段なら旦那様とエレーナ様は揃って朝食を取り食後のお茶との流れがあるが、この2日間ほどはできていない。旦那様はおレーナ様を時期当主とお決めになってから以前のようには溺愛なさらなくなった。{溺愛の表現は主人に対して失礼であるが、ともエドは思うが、それ以外の適当な表現が出てこなかった。}


しかし、愛娘とのお茶の時間をこよなく愛しておれる様子で、エドとしてもそれが痛いほどよくわかるため、今日は腕に寄りをかけてお茶を淹れるつもりである。


おおよその貴族の家では、朝食後のお茶の時間が設けれており、お茶は執事朝が淹れるものとされ、美味しいお茶をいれらる執事を持つことも一種のステータスとされている程である。このギレ家もこの時間に一日の予定の確認を行う。このこと自体は実務を行う中級貴族以下では珍しいことではないが、エドの場合は、主人と一緒にお茶を飲むことを許されていた。他家の執事が合うことが少ないが、このような話を聞いたことがない。


エドはこの主人とお茶を共にすることに誇りを感じていた。自身が必要とされ認めれられていると感じることができた。それゆえに、この朝のお茶の時間を主人にとって有意義な時間いするべく責任を感じ、最大限の配慮をむけていた。

茶器類や茶葉、お湯のチェックを終えて、エドは少し勇足になっていることを自覚しながらエレーナの部屋へ向かった。が客間の部屋に入ると、お嬢様は椅子にすまして座っていた。


もう着付けを済ませていた。

長い髪は、編み込みを入れ、動いても邪魔にならないようにアップでまとめられていた。深緑色の丈の長いモーニングドレスを身につけていた。

真っ青な海と空によく映える取り合わせであった。


エレーナはコルセットが苦手で、いつも着付けの時はエッタに泣き言を言っていたし、しばらくは気分が乗らないようで合ったが今日はその様子がない。


「おはようございます。エド」と顔だけをこちらに向けて挨拶をした。


何気なく、窓際の椅子に腰掛けているが、その伸びた背筋こちらを向くときの所作が洗練されていて、品があった。素直に美しい。と思った。


深く艶のある藍の髪に、ほぼ完全な金色の瞳はまるで夜空の月のように澄んでいた。

母君に似て、大変美しい顔立ちであったかが、純真で明るい分、子供っぽいところがありその部分に少し頭を悩ませていた。


先程までの、どこかにお心が行ってしまっているのではと思うよなこともあったが、今はそうのような感じもなくしっかりしている様子であった。きっと、気が付いたばかりで混乱なさっていたのだろう。


「今さっき食事が終わり、父もこっちにやってくると聞きましたわ。」言った。

「そうでしか、旦那さ様もエレーナ様とお茶を楽しみにしておりますので、今日はお喜びでしょう」


「まあ大袈裟・・・たった2日間ではないの。」とエレーナは笑った。


先程までの使用人の部屋と変わってエレーナのおお部屋異国の調度品が随所にあいらわれている。貴族間でも流行している。白磁の絵付けものが珍重されていた。遠く東の国より大国の南朝を経由してもたらされたもので、この部屋にも青い線で蔦もようの精細な染付された大皿が一枚と赤や青といった絵の具で鮮やかに天使に似た柄を描いたものがあった。


エレーナは幼い時より、芸術的感性が豊かで、特に鮮やかな一枚を気に入っていた。エドは不思議とこの異国の皿のもつ雰囲気が、今のエレーナの漂う落ち着いた魅力によく合っていると思った。


幼い時より、教育係としてお世話をしてきたお嬢様が、今回の乗船式が上々に運べば、まさに立派に飛び立とうとする姿に、少し胸が暑くなった。



エドが入ってきた扉とは逆方向の、両開きの扉が静かに開く。レオポルドのそば使いが入り左に避けて軽く頭を下げる。続いて当主レオポルトが入ってくる。


レオポルドは貴族にしては、筋肉質で頭は禿げ上がりって入るが、社交用のカツラをつけるためではない。そういった所謂貴族的な部分は少ない男であった。


領民の生活と所有する船の管理に心血を注ぐ、有能な男であった。


「おはようございます。お父様」とエレーナも席から立ち上がり会釈をする。

「昨日はすいませんでした。気分が悪くなって」と昨晩のことを詫びた。


「今は随分顔色がいいようで安心した。」といい娘の見ると少し目を細める。どことなく雰囲気が変わっていること、旦那様も気がついた様子だ。


「先刻、ブレッダの方から今朝方のことは聞いているが、どうしたのだ?」

「恐ろしい夢を見たもので、それでつい、申し訳ありません。お父様」と答えた。エレーナは俯き加減だった。


「そうか、夢かエレーナにも子供のようなところが残っていたのだな。」レオポルドは少し嬉しそうに言った。「それは、どんな夢か?話してくれぬか」と親子の会話になった。


エドは軽く会釈をしてから、お茶の準備に取り掛かる。旦那様は4年前に妻と次男を亡くした。まさに神まで呪わんとするほど落ち込んでいたが、なんとか持ち堪えることができた。それはまさにエレーナ様の存在があったことをふと思い返す。


家督を譲るのも、養子を貰うことが一般的だったが、旦那様はそうはせずにお嬢様に家督を譲る決心をした。

そう決めてからは、親子と言うよりは主従を意識した関係になったようになった。

それまでは、お互いに失ったものを補うような、仲の良い親子だっただけに、お互いに苦しそうであった。特にレオポルド様はエレーナ様を当主として立派にしなければという使命感と娘への愛情の板挟みにあるようで、息苦しい思いであったろう。


しかし、今日のエレーナ様の落ち着いた様子に少し肩のにが降りたのか、寛いでいるように思える。


そんな「エレーナ様も今年で成人された、旦那様もそろそろ後妻をもらっても良いとは思うが、一途な方だからな」ポッドに湯を入れながら思った。



「この船が沈むと言うのか?」少し力を帯びたレオポルドの声がした。

「お父様、ただの夢にございます。」とエレーナは澄ましている。「しかし、あまりに不吉な」と父が続ける。

「私もそう思います。」とエレーナは少し笑いながら「朝のこともお父様に理解して頂き嬉しいです。」

「そういういうなエレーナ」と父も笑う。


ちょうど、私がティーポットどをはこんでいくと、そんな会話をなさっていた。

そつない手つきで二杯のお茶をいれて両名の前に差し出した。いい香りが辺りに広がる。旦那様が私に着座を勧めてく、それに従い下座に着いた。


「それで、エド今日はどうなっている?」お茶をお飲みながら旦那様がいつものように尋ねる。

私は今日の予定を答える。

「それで、本日の酒宴は、大口の荷主様をご招待しておりますので、エレーナ様にもご挨拶をお願いいたします。」

この商船は大国の南朝とザドを行き来する商船であり、南朝からはスパイスや絹が渡り、ザドからは農産物などが中心であった。


ザドの顧客は大体が顔が利く貴族で、小国家だけにほとんど血族のような関係で(大半が実際にそうである。)エレーナ様のことは、面識がある。

しかし、南朝は商売上の関係のみであり、女性は軽んじられやすい。また、積荷は保存の効く物ばかりで、時間が掛かるが安い陸運キャラバンに流れる可能性すらある。

ここで、しっかりパイプを繋いでおきたいのは、私だけではなく、旦那様も同じ 思い出あった。


「ええそうね。商人たちとは一度お話をしてみたいと思ったのいい機会だわ」

とエレーナ様が答えた。


私は少し驚いた。

商人と話をしてみたいなど以前++昨日までのエレーナ様++のエレーナ様からは想像できない発言だった。貴族院の学友の話、花やお茶、恋愛のことが話題の中心であった。


エレーナだけでなく、ザドの貴族は平民や労働階級を下に見てりる。特に婦人方は普段から、他の階級の人々と接する機会が少ないので、どうしてもそうなってしまうし、エレーナ様も自ら率先して交流を持とうとは、考えていないようであった。


「やはり、お変わりになりましたね。次期当主としての自覚が出てまいりました。」私は声に出して褒めた。レオポルドも同意であった。


「私、当主にはまだ力不足です。見聞を広めたいと思っています。」エレーナが続けてたが、少し真意が飲みこ込めない。

「もちろん、今すぐに当主は無理だろう。私もまだまだ譲る気はない。少しずつ学んで行けばいい。不安も薄れてゆこう。」とレオポルドが励ましをかける。


「お父様は、まだまだ隠居するようなお年ではありませんもの、それを聞きまして安心できました。」微笑を浮かべてエレーナ様が答えるが、少しえみが怪しく目が光って見えたような気がした。


「その間、私は見聞を広げたいと考えておりますの。南朝は学術が盛んだと聞きますし留学をしたいのです。」とエレーナ様が言った。目は真剣そのものでレオポルドを見ている。


「リュウ、留学だと! 女でそれも当主が留学など聞いたこともないぞ」持っていたカップを全く見当違いの場所に、叩きつけるように置きレオポルドが言った。

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