第37話 暴動
僕は神聖皇国ロギアの依頼を達成し大金をてに入れた後、ゲルニクス教徒を僕らがやろうとしていることに適任だと考え、僕の横に立つグレイブがかつて300年前に皇帝をやっていたグレイブ・クラトレスだと打ち明ける。
しかし、今や前までの皇帝ではなく、墓から復活させたことで青年期のグレイブに記憶も姿も戻ってしまったことも打ち明ける。
普通なら信じてくれなさそうな話だが、歴史の長いロギアなら、若い頃のグレイブの記録もあるだろう。
「なんということか......。あのクラトレス王族の皇帝だったとは。確かに現皇帝は恐怖による支配と洗脳によって私腹を肥やしているとか......」
「そうだね。で、それをグレイブが取り戻したいってさ。今の今まで多数の依頼を達成して信頼をどうにかしててに入れていたんだけど、君達。聖徒たちの力でどうにかならないかな?」
「あぁ、私としては貴方たちの宣教の力を借りたい。宣教は最も手っ取り早く噂を広めることが出来、上手く行けば一気に大勢の国民の心を動かすことができる」
グレイブが聖徒と教皇に自分の計画を伝えると教皇は深く頷いて承諾してくれた。
「良いでしょう。帝国に隠れ暮らしていた聖徒全員に呼び掛けておきます。グレイブ・クラトレスの復活を帝国に伝え広めなさいと。恐らく、冒険者様方が帝国に帰った頃には事は動き始めているでしょう」
「そうか、感謝する。ではハク、帰ろうか」
「うん」
そうして僕は教皇と話を終えると、グレイブと一緒に結界の外で待機していた馬車のアルヴィズに乗り込み、聖域を出発した。
◆◇◆◇◆◇
帝国に到着。アルヴィズの足の速さもあってか、たまたまアルヴィズが快調のおかげで行きより半分の時間。たったの3時間で帝国に到着した。
帝国に到着すれば、教皇の言っていたとおり既に騒ぎは起こっており、帝国内に隠れていた宣教師が一斉に表に出て、帝国の大門を潜れば、何処からともなく『グレイブ皇帝の復活』という言葉が聞こえてきた。
しかし、その騒ぎは僕が予想したものよりもっと"酷い"有り様だった。
それは帝国の兵士が次々と宣教師を捕まえては野次馬を解散させ、見せびらかすようにして公開処刑をしていた。さらに、宣教師処刑に反対し罵声を浴びせる国民も容赦なく殺害。
僕は皇帝に血も涙も無いのかと、目の前の惨劇に驚いた。多少の被害は仕方がないと思っていたけれど、これほどまでとはもう、ノルデン皇帝は説得する価値も無いね。
「ふざけるなッ! ノルデンめ......今日は貴様の命日だ。皇帝として許されざる行為だ。最早息子などしったことか。行くぞ、ハク」
グレイブは怒り心頭だった。そりゃそうか。例え記憶が皇帝前でも今のグレイブは皇帝になるために準備をしていた青年期。つまり、王家として教育を受けた直後だからこそ、ここまで国民を哀れみ現皇帝に向かって怒ることが出来るんだよね。
僕はグレイブの声に反応してノルデン皇帝に会いに行くために歩きだした。
大門を潜れば聞こえる宣教師の声と容赦なく兵士が殺害する国民の悲鳴と罵声。ただ所々一部では無差別に民を殺す兵士の姿に宣教師は言葉を変え、国民に訴え、国民は団結している所もあった。
そうしてグレイブと一緒に帝国中央区に行けば、惨劇はさらに酷さを増していた。それは最早暴動ではなく、抗争。
国民を殺す兵士を冒険者が殺し、その冒険者を兵士が殺す。という冒険者と兵士の抗争が始まっていた。
ただし、戦況は意外にも冒険者が優勢だった。僕は冒険者と組んだのはグレイたち意外いないが、それよりも他に強い冒険者はいたのか。恐らくあれがゴールドランク冒険者なのか。例え囲まれても兵士を次々と薙ぎ倒す冒険者がまちまちといた。
して兵士側は冒険者に対して貴重な兵器を使う始末。狼狽え大砲を発射し続ける兵士。軍を為してまで冒険者に向かって指揮をとる兵士。それでも戦況は一向に変わらないことに僕は予想以上の結果に驚いた。
「グレイブ今だ。ノルデン皇帝への道はがら空きだ!」
「あぁ!」
僕はグレイブに合図してまっすぐ警備ががら空きになったノルデン皇帝の宮殿へ入った。
しかし、皇帝も流石に馬鹿ではないのか。宮殿に入って王の間、謁見室前には多くの、恐らく装備からして隊長クラスの兵士が待ち構えていた。
「来たぞおおぉ! 反逆者を殺せええぇ!」
「不味いね。こっちは二人だ。グレイブ行ける?」
「元より私がやらなくてはいけないことだ。隊長クラスが何人来ようとも敵じゃない!」
「さっすが。でもこの数は気合いで何とかなるって感じもしないよ?」
「だがやるしか無いッ! うおおぉ! 掛かってこい!」
そうしてグレイブが多くの兵士とぶつかる直前。僕とグレイブの目の前に黒い影が高速で通りすぎたかと思いきや、目の前の兵士が諸共吹き飛ばされていた。
すると僕の背後で獣の咆哮が響き、僕は思わず耳を両手で塞ぐ。
「ウオオオオオ!!」
「え?」
何事かと僕は後ろを振り向くと、目の前には真っ黒な体毛で手足に枷が付けられた体長5メートルはある獣がいた。
そしてその背後にはなんと勇者メンバーである岩井康太郎がいた。
「岩井君? こんなところで何してるんだい? 他のみんなは? それに兵士をぶっ飛ばすなんて何をしたか分かっているのかい?」
岩井は僕ににやりと笑みを返せば、吐き捨てるように言った。
「ふん、他のみんな? それは誰のことだ? まさか光輝達とか言わないよな? もう別れたよ。あいつらとは。
やっぱり最初から分かっていたんだ。どうして僕がこんなあまりにも趣味も会わない無関係な奴らとパーティー組まなくちゃ行けないんだってさ。
あいつらの中に僕は居ちゃいけないんだ。あいつらは失敗や大きめの出費を誰が悪いだとか決め付け、前に進もうとしない。
金稼ぎや依頼を引き受ける時だってそうだ。利益を求めるばかりで、何を達成すれば現状は良いのかとか何も考えない。
そして僕が何かすれば一方的に怒られ、唯一僕を見捨てなかった光輝も僕のやりたいことに気づいてくれない。見かけだけの優しさってやつさ。
あんなところにいては僕はいつまでも縛られ、口を開けば嫌な顔をされ、鬼堂に殴られる。誰も止めようとさえしてくれない。殴られて当然だと思っているかのような顔で僕を蔑む。
あんな場所僕にとってはもうクソッタレだ!! 自分から棄ててやったさ!」
「それはそれはお気の毒に......」
「でも本当に影君は違うや。他のやつらより不思議な存在だったけど、まるで他のことはどうでもいいとか思っているような目で、いつも何処か遠くを見ていて、僕に対しても攻めたり、蔑んだり、変な優しさもかけてこない。
だから僕は君をこれから手助けすることにした。それと僕は自由にいきようと思う。そしたらいつかあいつらを見返すくらいの地位に立って......思いっきり見下してやるんだ......」
岩井はとにかく嫌なことを思い出すようにぶちギレまくっていた。光輝たちとは完全に別れたようだ。
「それはまた面白そうなことを考えているんだね。うん。僕を今助けてくれるのは大いに有難い。でも、君の言う復讐は僕は手伝うことはできない。理由もメリットも一つも無いからね。それに、君は僕に恩を返されることはその様子じゃどうせ望んでいないだろう?」
「あぁ、それでいい」
「じゃ、思わぬお助けが来たけどグレイブ、行こうか」
「あ、あぁ......」
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