勇者視点・その4
勇者一行、光輝、鬼堂、茜、如月。四人は、岩井と別れた後、1つの異常を感じてまたノルデン帝国に向かっていた。
その異常とは、光輝達がいつものようにギルドから依頼を引き受け、お金を稼いでいたところ。突如とノルデン帝国から一切の依頼が来なくなったという。
かつての影白がウルフの縄張りを片っ端から制圧していたように一つの依頼が既に終了扱いとなり、次々と依頼のキャンセルがあった時とはまた別で、王国冒険者ギルドにノルデン帝国からの依頼が不自然にも完全に消えたという話だった。
これはこれまでに前例がなく、強いて言えば戦争中という緊急事態なら依頼が著しく減るという事例はあったらしい。
しかし、今起きている現状は、そんな緊急事態という報せもなく突如として帝国からの依頼が消えたことだった。
有り得るわけ無いが、そんな状況を可能とする理由を一つだけ挙げれば、“冒険者ギルドが消えた“しか無い。若しくは冒険者ギルドが完全に機能を停止したか。
影が家を建てた場所もノルデン帝国の郊外ということももあってか光輝はどうしてもこれが気になり、全員を率いて帝国へ向かうことにした。
◆◇◆◇◆◇
一方、元勇者メンバー岩井康太郎は、光輝達と別れた後、一人でノルデン帝国に入り、街の路地裏に暗く座り込んでいた。
別に別れたことに怒り、悲しんでいるわけではない。岩井は別れた時に一つの固有能力が覚醒したのだ。
その名は、『情報収集・分析』。最低額を50万オロに。金を固有能力に使うことで今知りたい汎ゆる情報を開示、分析が可能という。
最早、『鑑定』の上位互換。若しくは遥かに越えると言われており、この固有能力を持つ者は、世界で指で数えられる人数しか居らず、その数人も有名な学者だけらしい。
これを岩井は光輝と別れた瞬間に覚醒し、金稼ぎには最高だと。完全に独立することを決めた。
して、岩井もノルデン帝国にいながらその異常さに気が付いていた。現在、帝国で何が起きているのかと言うと、今まで長い間隠れ活動していた神聖皇国ロギアのゲルニクス教の聖徒が、帝国の所々で演説を始めているのだ。
演説の内容は、300年前にあったクラトレス王族の復帰に関して、グレイブ皇帝の復活を謳っていた。
演説自体は完全に無断で行った物であり、帝国の兵士は次々と聖徒を見つけては野次馬を解散させ、見せびらかすように殺害していた。また、それに乗っかりの帝国民達も聖徒に石を投げるようになり、帝国と帝国民の大きな拒絶によりすぐに収まるかと思われた。
しかしそれは真逆の行為であり、後に帝国民達から帝国は大きな反発をくらうことになる。
「どうせ影君がやったんだろう。次は一体何をしでかすつもりなんだろうか……。情報を集めないと……。んーいま宣教している聖徒に聞いた方が早いかな」
岩井はそこから立ち上がると、路地裏から帝国の大通りに出て、これから宣教しようとしているであろう白いロープで全身と顔を隠した人間を路地裏に引き摺り込むように引っ張る。
「な、なにを!?」
「ちょっと話が聞きたいんだ……」
岩井の固有能力は自分のお金、又は稼いだお金を能力に注ぎ込むことで知りたい凡ゆる情報を即座に知ることが出来る。
それは人に聞いた話より鮮明で、曖昧な部分は一つも無い。だから聖徒に直接"聞く"のも良いが、聖徒と交渉して聞く方が正確性があると考えた。
「急にすまない。僕は情報屋を営んでいる者で、お前を見てピンときたんだ。何か知りたいことは無いか?」
「なに!? 急に私を路地裏に連れ込んだと思えば知りたいことは無いかだと!? あぁ、あるさ。愚かな愚民よ、貴様がこれから何をしようとしているのかを知りたい!」
「良いだろう。それくらいなら50万オロで十分だ」
「な、貴様の情報を知るのに、何故目の前の情報屋を頼らねばならぬのだ。ふざけるな! 我々は貴様らのような闇に手を染める気は無いッ!」
「ふっ、僕を他の奴らと同じにしてほしくは無いな。僕はなんでも知っている。世間に出回っていない情報や、歴史に載っていない隠れた情報まで」
「むむむ……。前言撤回しよう。別に貴様を信じる訳では無い。お前が本当になんでも知っているというのなら、試してやる。
実は今を引き起こした主催者がいてな。そいつの言っていることは確かにこの帝国を救うものなのだが、そいつの真意が分からぬ。一体これから何が起きるのか。
これはかの者の心の中にしか無い情報だ。これが分かるのなら認めてやろう。いくら必要だ。今の我々は、いくら失おうとも一切のデメリットは無い」
「へぇ、そうかい。なら遠慮なく要求しよう。高ければ高いほど正確な情報が得られるからね。じゃあ情報料は……2,000万オロでどうだ?」
「ほう、なかなかの金額だな。だが払える金額だ。良いだろう。これで知れるものなら知ってみろ」
岩井は金を受け取ると、にやりと笑って固有能力を発動する。
「情報収集『帝国で起きている宣教の主催者の真意』」
そう言葉に発すれば、岩井の前に無数の灰色透明の窓が開かれる。
《情報収集》《帝国、宣教、主催者》《ノルデン帝国、神聖皇国ロギア、影白》
《影白、真意》《情報開示:1,500万オロ》
「よし。えーと次は……」
「む? お前虚空を見て何をしているんだ?」
次に岩井は窓に表示された情報を読み上げる。
「情報開示:宣教の主催者。影白は、目的は宣教ではなく、それによって多くの人の心を掴み、恐怖と支配で奪われた帝国民を動かす力にして欲しい。その最終目的は、現皇帝に先代皇帝復活を突きつけ、それでも反発しようものなら革命を起こすつもりである。
多少の犠牲は出るが、皇帝も帝国民を全員を殺すことはないだろう。それで弱った皇帝を座から引き摺り下ろす……だそうだ。
これはこれは僕の友人はとんでもないことをしでかそうとしているようだな」
「その情報はまことか!! 確かに我々が今やっていることと照らし合わせれば、理にかなっている……。あいつはそんなことを考えていたのか……はっ! いいや信じられん。貴様、そんなことで我々を欺こうと考えいるな!?」
「聖徒とあろうものが往生際が悪いなぁ。まぁ良いよ。信じるかはあんた次第だ」
そう言い放てば男の聖徒は、岩井から逃げるようにして路地裏から大通りに消えていった。岩井はそれを追いかけようとはせずに、開示された情報に頭をただ悩ませていた。
現皇帝に先代皇帝の復活を告げるとは、先代皇帝がどういった人物なのかは知らないが、現皇帝の態度を見る限り、それは暴動になることは避けられない。つまり、影白が考えている革命なんて起こる日が来れば、帝国に安全な場所がなくなる可能性が高い。
今すぐ移動するべきか。それとも居座って革命の最後を見守るべきか。
だが岩井はこの選択をすぐに決めた。
自分の友人がとんでもないことをしでかそうとしているのだ。危険なのは影も同じ。ならば一つでも手助けするのが、友人としての筋というものだろうと。
「面白い。もし僕の命に危険が及ぶことになろうものなら、今すぐもっとお金を稼いで、生存率をあげないとな……」
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