第36話 S級

 聖域ニルヴァーナ。結界修復の為、守護者の神殿建造二回目。最終防衛。


 一回目は黒騎士との激戦があったけど、二回目は何が相手なのか。そう僕は身構えていると、突如僕の胸にレーザーポインタのような一筋の光が当てられる。

 その光は僕の目と鼻の先。黒い瘴気を纏う魔物の群勢から一本だけ伸びており、すぐにピンポイントで狙われていると察した。

 そう気付いた直後、その光を遮るようにして、バルの叫び声と共に大盾が真上から落ちてきて地面に突き刺さった。


「それで防げええええ!!」


「え?」


 僕が、バルの声に気が付き咄嗟に大盾を構えた瞬間だった。僕の手には盾を掴んでいたおかげか、一瞬吹き飛ばされそうな衝撃が全身を走った。目の前を見ると、神々しい光を放つ一本の槍が大盾を貫かんと、連続的に衝撃波を発していた。


「な、なんだこれ!?」


 槍の貫こうとする力は時間が経つにつれて弱まるどころかどんどん勢いを上げて、僕の筋力がじゃ抑えきれないほどに膨れ上がる。

 僕は我慢出来ずに槍の軌道をずらそうと盾を横へずらしながら飛び込んだ。

 しかし槍は勢いが止まることを知らず、背後のバル達に向かって一直線に飛ぶ。それをバル達も避けて、槍は全員を通り過ぎて飛んでいけば、遠くで真上に飛んでいき、主の所へ戻るようにして槍は魔物の群勢の方へ飛んでいった。


 僕は唖然とする。槍を投げた主は一体何者なのか。バルの指示が無ければ今ごろ槍に貫かれ死んでいただろう。


「今のは一体?」


「アイツはぁ……多分ジャベロットっていうガウェインと同じタイプのバケモンだ。武器名は聖槍ロンギヌス。俺達は別の世界の歴史で、神様を打ち抜いたって話だぜ……。

 魔物等級はS〜S+ランク。なぁ? これからやる三回目と四回目もこれより強いやつ出てこねえよな?」


「全く予想出来ないや……兎に角ここを切り抜けないと今度こそ全滅だ!」


 僕はふと視線を魔物群勢に戻す。そうすれば既に物凄い速さで恐らくアレがジャベロットか。

 頭には羽の付いた立派な兜に上半身は金色の鎧、下半身は鋼鉄の脛当て。そして両手持ちでロンギヌスなる槍を真っ直ぐ構えてこちらに突進してきていた。

 あれだけの重装備で良く動けるなと感心するほどの速さで。


 言うなれば古代ローマ兵士みたいな姿で黒騎士のガウェインよりかは防御力は低そうだけど、槍がさっきの盾で防いでいたことを思い出せば一撃でも当たれば僕は勿論、グレイブさえも耐えられないのでは無いかと思う。


「来るぞ!」


 ジャベロットは良く勢いが付けば、ロンギヌスは光り始め、眩しさが最高点に達した瞬間、遠距離から刺突攻撃を繰り出した。

 ただどう考えても当たる距離では無いと思えば、ロンギヌスから光のビームが発射されていた。


 そうすれば僕の視界はゆっくりになる。一回目より固有能力の効果が気持ち元に戻っているような気がした。

 僕は光のビームを大きく迂回するように避けると、そのまま剣でジャベロットの身体を切り裂く。


「えりゃあああ!」


 時は動き出す。が、まるで僕の剣筋は空間が歪むようにして避けられた。いや、確実に当たっているように見えたが実際には当たっていない。直後、ジャベロットからの反撃。

 また時は遅くなったことでギリギリ避けられた。


「あれ? 当たっていない……?」


 そこで教皇が僕に向かって叫ぶ。


「聖槍騎士ジャベロットに物理攻撃は効きません! ここは私らにお任せを! 極大魔法を叩き込みましょう!」


 なんということだ。魔法特攻の物理無効だったとは。もし僕が教皇に協力を求めなくては魔法担当がいないこのパーティではもしかしたら全滅必至だったかもしれない。

 ということで教皇はまた意味不明な発音を唱える。


「ᚻᛖ ᚨᚱᛖ ᚷᚩᛞ. ᛏᚩ ᚨᚾ ᛁᚾᛋᚢᚱᚷᛖᚾᛏ ᚩᚠ ᛏᚹᛖ ᛁᚾᛏᛖᚾᛏᛁᚩᚾ ᚩᚠ ᚷᚩᛞ ᚳᚩᚾᚣᛁᚳᛏᛁᚩᚾ」


 そう唱えれば、突如ジャベロットの上空の雲に大穴が開き、その中央から超強烈な光の柱が落とされた。ジャベロットの周囲はバチバチと電流が走り、近辺にいた僕も吹き飛ばさそうになる衝撃波が起きる。

 更に光の柱はみるみると拡大していき、完全にジャベロットを飲み込めば、すぐに光は消えた。

 そしてジャベロットも完全に消滅していた。


 教皇様の魔法、どれだけ強いんだ……。魔法しか効かないジャベロットと言えど跡形もなく消滅してしまった。これが本当に弱体化していると言うのなら、本来の力は……。


 そうしてジャベロットが消えると、丁度神殿の建造が終え、守護者は槍を持っていた。

 あれ? もしかして各神殿建造には守護者が持っている武器が最後の敵になるのかな?


「さぁ、これで二回目ですね。冒険者様、引き続き三回目へ参りましょう」


 三回目は赤い鎧を着たマサムネという名の武士で、僕の攻撃やグレイブ達の攻撃が尽く弾かれてカウンターを打たれ、かなりの苦戦を強いられた。

 最終的にバルの弾かれても体勢を崩す事のない絶対的な防御で囮になってもらい、マサムネの死角から全員で斬りかかることで倒せた。

 三回目の守護者はやはり武士姿の刀を使う形だった。


 次に四回目は大弓を持つ兵士でアルテミスという名だった。一発撃てば、矢が数十本に分かれ、一本一本が追尾機能を持って僕たち全員を貫こうとしてきた。

 向こうは遠距離でこちらは近距離、更に魔法無効という厄介性質。教皇でさえも足止めが出来なかった。

 そんなモタモタとなんとか矢をとにかく避けまくっていたら一回目と同じように神殿が建造完了して、大弓を持った守護者が光速をも超える速さの矢でアルテミスを貫いた。


 こうして僕は全ての四つの神殿の建造を終えれば、結界四隅に建つ剣、槍、刀、弓の守護者の神殿が光りだし、全ての光が融合するようにして、結界外にいる全魔物に対して合体魔法が放たれた。

 そうすると、周囲に漂っていた黒い瘴気の魔物は霧となって消えていった。


「やっと終わったんだ……」


「いやはやお疲れ様です冒険者様方。私共も神殿建造の協力をして、依頼難易度の設定をしっかりと勉強させていただきました。

 こちらは授業料として、皆様全員に一人ずつ500万オロを報酬とします」


「マジかよ! やったぁ! ありがとなハクさん! すげぇ死ぬ思いしたけど、三人で1,500万オロ! 十分すぎる報酬だ!」


「うん。じゃあまた何かあったら頼むよ」


「あぁ! でも流石に今回みたいな死ぬ思いするようなのは止めてくれよ?」


「まぁ、なんとかなるさ。さて、僕はまだ教皇に話があるんだ。先に帰っていいよ」


「分かった。じゃあな!」


 僕はこれにて神聖皇国ロギアの依頼を達成したので、次はこちらから頼み込む。

 僕の目的はグレイブの目的になるが、ノルデン帝国の王位奪還だ。

 そう、グレイブさえ王に戻って仕舞えばきっとノルデン帝国は今よりずっと過ごし易くなるだろうという算段だ。


 それを確実に実行するには国民からの革命が効果的だとグレイブは考えている。革命即ち、恐怖で陥れられてきた国民達の暴動でもある。

 その暴動を起こすには必ずと言っていい程のリーダー的存在が必要であり、心が制圧されている国民達をどう動かしてやるか。

 ここに宗教という拡散率の高い『宣教』という行為なら少しでも心を動かせるかもしれないという。


「あー教皇さん信じてくれるか分からないけど、今隣にいるのはグレイブ・クラトレスなんだ」


 宗教ならきっと長い歴史を知っているかもしれない。グレイブが暗殺された300年前の話もだ。


「なんと! あのグレイブ・クラトレス。いや今で言えば先代皇帝……!」


「あ、あぁ……済まない皇帝だった時の記憶は無いんだ。私は墓から魂を蘇らせられた身でな……」

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