第26話 後始末
僕は王国の反逆者という汚名返上と、帝国民の信頼獲得のために、ギルドへガレオン魔導都市の魔物研究所から依頼されたエンシェントゴーレムの破壊に成功した。
当初は破壊ではなく部位破壊だけして報酬をもらおうと考えていたが、ゴーレムはそう簡単には逃げさせてはくれず、結局破壊することになった。
エンシェントゴーレムは大英雄の墓と呼ばれるカルデオン遺跡に捨てられた形で置かれており、その奥の部屋に入ればその呼び名に相応しい部屋があった。
もう一つは半円形の部屋になっており、前方に四つ鉄格子が掛かった小部屋と、その中には鉄のような兜、胴鎧、
そしてそれを開くには、各部屋の鉄格子に掛けられている円盤が嵌め込められる窪みが空いている特殊な錠前。
「なにこの凄そうな部屋……」
『流石大英雄の墓と呼ばれるくらいだな。この保管されている鎧もそれにまつわるものなんだろう』
「グレイブはこの四つの紋章に見覚えはあるか?」
『ごめん、無いや』
「うーんまぁ良いや。別に宝探しに来た訳では無いんだし。さっさとゴーレムをギルドに届けに行こう」
破壊したゴーレムの解体。流石にその巨体のまま持っていくにはあまりにも重過ぎる。だから解体するのだが、戦闘中部位破壊すら出来なかったんだ。どうやって解体すれば良いものやら。
「何か遠くに連絡できるものが有れば……あ……」
『なにか思い付いたのか?』
僕は一人で考えて一人で思い付いた。この世界には携帯や電話なんて物は無い。しかし、人がいるじゃないか。
僕はそれを呼ぶ為に一旦遺跡の外へ出た。そこで、馬車の鈴を鳴らす。一体この鈴はどんな原理で遠くに音を届けているのか。しーんとした遺跡前で静かな音を響かせる。
そうすれば、遠くから馬の蹄の音が聞こえてくる。
「旦那ぁあぁ!」
その叫び声と共に目の前でピタリと止まるのは、馬車だ。
「こんな遠くまで良く来たね。じゃあ、別に乗せて欲しい訳じゃ無いんだけど、連絡をしたくてさ」
「な、連絡だって? 馬車を伝令に遣わせるなんて初めて聞くぜ」
そう馬車はあくまでも馬だけではなく、それを操縦する人間も乗っているんだ。連絡用として最適だろう。
さて僕はこの馬車にエンシェントゴーレムを倒した事を帝国のギルドに報告するんだけど……連絡先を変更することにした。
「えーっと。ガレオン魔導都市魔物研究所の研究員に『エンシェントゴーレムの撃破』のことを伝えに行ってくれない? 研究員の名前はちょっとわからないんだけど、ギルドに依頼した者とかなんとか言えば伝わるはず」
「えぇっ? ガレオン魔導都市!? んな遠くまで?」
「え? だって此処はガレオンの領地なんでしょ?」
「いやまぁ、それはそうなんだけど。此処はガレオン領地と帝国領地の国境付近と言うか。その旦那のいうガレオン魔導都市ってのは此処からかなりの距離あるんだ。それはもうこの馬車でさえも一週間掛かる距離で……」
あぁそういえば僕の家と帝国に馬車を引かせる時も、最安値で間距離が二〜三日が限界とか言ってたっけ。
つまりこの馬車の人はそれに見合ったお金が無いと行くつもりは無いと。正直に言えば良いのに。
「いくら欲しいんだい?」
「ええっ? あーそうだな。ざっと50万オロだな。あー馬車の通常料金一週間分より高いなんて言うんじゃねぇぞ。こちとら商売なんでね。馬車組合もそうだが、馬車操縦士一人一人も金を稼ぐには歩合制しか無いんだよ。
この料金は距離とかは関係ねぇ。俺に対する十分な給料だ」
50万オロ。グレイブは20万オロと、僕は59万オロ持っている。合わせてグレイブの所持金は無くなる訳だけど……どうしてもガレオン魔導都市に連絡するのには理由がある。
もしギルドに届ければエンシェントゴーレムの残骸を回収後、ガレオン魔導都市に届けられ、報酬が正常にもらえる訳だが、依頼人はそのガレオン魔導都市にいるんだ。
つまり、依頼人に直接届けるってことをすればもしかしたら追加報酬も狙えるんじゃないかってね。あくまでも想定だけど、やる価値はある。
ということで僕は馬車にグレイブの20万オロと、僕の30万オロを払った。グレイブに関しては特にお金は興味なく帝国民の信頼のためならという理由で難なく所持金を全て手放してくれた。
「じゃ、頼んだよ」
「おうよ! さっと行ってくるぜ!」
馬車の操縦士は馬の手綱を思いっきり引くと、物凄いスピードで僕の前から去っていった。さて、まさか此処で一週間待つ訳が無い。このままギルドに帰ろう。
僕はもう一度鈴を鳴らして、グレイブと一緒にギルドへ帰った。
◆◇◆◇帝国ギルド◆◇◆◇
帝国ギルドに戻ったはいいけど、今回の報酬は一週間後だ。また一つ依頼を受けないと暇になってしまう。次はサクッと稼げるのが良いなぁ?
僕とグレイブは次の依頼に悩んでいると、冒険者ギルドの入り口から四人の集団が入ってきた。
そう、勇者パーティだ。なんだか前と一人減っているような気がするけど、僕には関係無いだろう。
「あ、いたいた
「ん? なんかしたっけ僕」
「借金だよ! 俺達がお金が無いって貸してくれたじゃ無いか。影に借りたお金10万と、一週間分の馬車料金17万5,000オロ。合わせると27万5000オロだけど、稼いだというか殆ど貰ったお金なんだ。
だからその本人に謝るのも含めて30万オロ払うよ」
「あー。確かそんなこと言ってたね。あまり期待して無かったから忘れてたよ。じゃあ、このうち17万5,000オロは馬車組合に寄付っと。ま、ありがとう」
「あぁ、じゃあな! 俺も助かったよ!」
こうして僕に急な収入があった。だがこれじゃあ自由に暮らせるお金には程遠い。やっぱり依頼を受けてお金を稼がないとならない。
『次は一週間待つために楽な依頼が良いだろう。なんでも信頼獲得するためとはいえ私達の体力が無くなっちゃあ元も子もないからな』
「そうだね」
そうして僕が選んだ依頼は難易度Eの物にした。
難易度E 薬草採取
デトクス草の採取
『儂は帝国の薬草調合師をしておる者じゃ。あまりギルドなんぞに依頼はせんのじゃが、少々危険な依頼でな。危険な地に赴かせるのに最も適した人間といえば冒険者がいるでは無いか! だからこの依頼をした。
さて、儂が取ってきて欲しいものとは、デトクス草という薬草じゃ。
此奴は解毒効果があるくせに嫌な所にしか生えていなくてのぉ。帝国より南西に行った先にあるランシー森林の中の毒沼の中に群生しておるんじゃ!
しかも、ランシー森林は何かと有毒ガスが充満している場所でな。恐らく雑貨屋に防護マスクくらい売っとるじゃろ。それを買って行ってこい』
報酬:
・デトクス草10個に付き30万オロ
・解毒剤10個
・調合師免許皆伝
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