第25話 エンシェントゴーレム
「ゴゴゴゴゴ……!」
『ハク! 来るぞ!』
エンシェントゴーレムは腕を振り上げると、僕に向かってゆっくり振り下ろす。これくらいの遅さなら自分自身の技能でも避けられるが、それでも固有能力である【回避】が発動し、時が遅くなる。
これ以上遅くなっても仕方がない気がするが僕はこれを機に、行ける所まで後退し、思いっきり助走を付けて、高く跳んでエンシェントゴーレムの胴体を殴る。
エンシェントゴーレムの体長は六メートルにも及ぶ巨体。胴体、胸部辺りを攻撃するには跳ぶしか無かった。
時は動き出す。かなり助走を付けて且つ本気で殴ったので、【回避】能力の性質からすると、僕の素手パンチは何十倍にもなってゴーレムに入ったはずだ。
しかし僕は勢いよく弾き返された。確かに凄まじい力がゴーレムに入ったが、相手が鉄の塊のせいか通り切らない力は反動となって僕に返ってきた。そう硬すぎるんだ。いや、そもそも鉄のゴーレム相手に素手は間違っていたかな?
「ッチ……硬い!」
『うおおおぉ!』
僕の攻撃が弾かれると、続けてグレイブはゴーレムの背後から跳び上がり、後頭部目掛けて鉄剣を振り下ろす。
しかし、そんなグレイブの剣さえも簡単にポッキリ折れてしまった。
『なっ!?』
「グレイブ! 僕にその折れた剣を貸してくれ!」
『え? あ、あぁ!』
刀身がど真ん中から完全に折れた剣を僕は受け取る。この剣に斬る力は無くとも突くことはできるはずだ。
ゴーレムはこれに反応すれば、すぐさま横薙ぎに腕をぶん回してきた。
時が遅くなる。さて、僕は武器を使った【回避】能力の性質を試したのはこれが初だ。どれだけの力になるのだろうか。
僕はゴーレムの腕がこちらへゆっくり向かってくるのをすぐに懐に入り込み、次も本気でゴーレムの脚関節に向けて剣で突く。
「これでどうだぁ!」
時が動き出す。そして何十倍にも威力が跳ね上がった剣がゴーレムに脚関節に突き立てられる。一瞬だけガリガリと金属同士が擦り合わさる音が響くと、次の瞬間に折れた剣の刀身と柄に一気にヒビが入り、粉々に砕け散った。
剣の持ち手さえもバラバラに砕け散る程の勢いだったのか、ゴーレムの片足が少し後ろへ下がる。ただそれだけだった。なんのダメージも与えられていない。
「やっぱり硬すぎる! どうしたらいいんだ?」
『魔導ゴーレムは自我を持つ立派な魔物だ。機械じゃ無いからスイッチも無いんだよなぁ』
僕はゴーレムに弱点が無いかよく身体を見れば、ゴーレムの頭部の中央に大きな青い宝石が埋め込まれていることを発見する。でもそれは普通の宝石では無い。
ゴーレムは僕の視線に気付いたのか、突然宝石が鋭い光を発した。
時が遅くなる。【回避】能力が発動したということは敵の攻撃が僕に向かって飛んできているということ。僕はふとその場からゴーレムの宝石を良く見れば、青く鈍く輝く光線を発射していた。
この光線に当たればどれだけ痛いんだろう? 魔式による攻撃か、そういうエネルギーを放つ兵器なのか。どちらにせよ当たれば体が吹き飛ぶレベルじゃ済まないと思う。
僕は光線の軌道を良く読んで横に良ければ、時は動き出す。
風を切るような音が僕の耳元を横切った。光線の威力を見れば、光線の通過点が青く焼き焦げ、床を抉り溶かしていた。
なんて恐ろしい武器なんだ。どう見ても対人用ではない。何せ戦争で活躍した兵器なんだって? 対兵器用攻撃も用意していただろう。
「このレーザーはやばい! グレイブ、絶対当たるなよ! 死ぬぞ!」
『いや、撃たれたら終わりだ! 人間が到底避けられる速さじゃなかったぞ!?』
あぁ、【回避】能力って周囲の時間がゆっくりに感じるから実際の速さって分からないんだよね。じゃあどうする? この力は他人の別対象への攻撃には反応しない。なら全力で庇う? いやそれでも自分に攻撃が当たることが確実にならないといけないから絶対に間に合わない。
ならやられる前に沈めるしかないか!
僕は腰に携えていた鉄剣。いつ頃買ったのだろうか。ずっと素手で戦っていたから忘れていた。多分冒険者始める時から持っていたと思う。
それを引き抜き、逆手に持ち替える。
「ヴウウウン……」
「ゴーレム! こっちを狙え!!」
ゴーレムが徐にこちらを振り向くと、容赦なく光線を発射してきた。時は遅くなり、今が勝機。鋭く光り出す宝石の光線の軌道から若干横にずれ、僕は光線が撃たれる発射口から、真っ直ぐ正面ではなく、ほんの少し斜めから。
放たれる光線と発射口の絶妙な隙間へ差し込むように、逆手に持った剣を槍投げの要領でぶん投げる。
【回避】能力と投擲の合わせ技。上手くいけば投げた剣は銃弾の如く威力発揮するはずだ。
時は動き出す。僕の手に衝撃波が発生する。剣は僕の目では見えない速さで、ゴーレムの宝石部分に上手く突き刺さった。思いの外深く突き刺さり、恐らく宝石もタダじゃ済まないだろう。
「ゴゴゴゴゴ……!」
「まだだ!」
僕は宝石に剣が突き刺さったことでよろめくゴーレムへ飛び乗り、もっと深くに剣を押し込む。手応えとしては宝石は確実に貫通した。それからさらにゴリゴリとしたゴーレムの中に何か柔らかい小石でも入っているのか、剣が何かを抉り削る感触が僕の手に伝わる。
これで恐らく光線は撃てなくなっただろう。だがまだゴーレムは生きている。ゴーレムは頭の上に乗っかる僕を叩き潰そうと両手を僕に向かって叩きつけてきた。
だが時は遅くなる。
僕は最後に渾身の力で頭に刺さった剣の柄の先端をもっと奥へ差し込ませるように蹴りつける。
時は動き出す。僕の渾身の力は何倍になって変わるんだろう。剣の柄を蹴り付ける僕の足は軽く。蹴られた剣はざっくりとさらに奥へ刺さり、そうしてついに後頭部を貫通した。
このエンシェントゴーレムは魔物の意思という自我を持つ以上、動力源や魂なんてものだけじゃどうにもならないだろう。何を敵と判断し、何を守るべきか考え、どうするべきか選択する。人間でいう脳みそ。思考回路が組み込まれているはずだ。
ゴーレムはまるで気力失ったかのように俯いた姿勢で機能を停止した。
『倒したのか……?』
そうすれば、僕が入ってきた入り口の扉は開かれ、奥の部屋へ繋がる扉も開かれた。
すると僕の頭の中で金属が弾ける音が響く。勝手にステータスが開く。僕のレベルが6から8に上がっていた。ただそれだけだった。
僕って今更だけどレベル上がっても身体能力にはほとんど意味ないんだよね。だってレベル1上がるごとに全ステータスが1上がるだけなんだから。
オール1から始まった僕の今のステータスはオール8だ。本当に【回避】能力さまさまだね。
「終わったぁ……今度こそ本当に死ぬかと思ったよ……」
『ハクは異常に回避能力が発達しているんだね。それが転移者の恩恵ってやつか?』
「まぁ、そんなところかな」
『ふーん。じゃ、ゴーレム解体したら奥の部屋に行こうか』
「うん」
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