第27話 ランシー森林
僕とグレイブはエンシェントゴーレムを倒し、報酬待ちにもう一つの依頼を受けた。
帝国調合師からの依頼。帝国より南西にあるランシー森林の中にある毒沼で群生するデトクス草の採取。
聞くからにどう考えても猛毒に浸りまくった薬草なんだろうけど、どうしてそんな薬草が解毒剤になるかは全くの謎だ。なんなら逆に毒薬も作れそうな気がする。
「えっと確か雑貨屋で防護マスク買った方がいいんだっけ」
『私の記憶ではランシー森林なんて無かったな。300年の間に色々地形の変化があったのだろう』
「300年あれば森も生えるのか……じゃ、行こうか」
防具マスクを買うために雑貨屋に行けば、此処には本当になんでも売っているのか。そう思える程に丁度良く防護マスクが売っていた。それもかなり現代式。
顔全体を覆う大きさで、目は透過されたガラスで作られ、口元の頬に二つの吸入缶が付いて覆い隠されている。
確か本来ならこの吸入缶に毒ガスを浄化させる薬が入ってるんだけど……この世界なら魔式でどうにかなるかな。
僕がじっと防護マスクを見つめていると雑貨屋の店主が話しかけてきた。
「お客さん。防護マスクを買うんですかい? なら防護服もセットでいかがですかな? ここで防護マスクを買う人は大体ランシー森林にしか用途ありませんし。それにあそこの森。防護マスクだけじゃあ、ガスに触れただけで身体も溶けますぜ」
なんてこった。危うく防護マスクだけで安全だと思ったら死ぬところだった。
僕は店主の言う通りに防護マスクと防護服をセットで買った。なんとお値段合わせて8,000オロ! グレイブの分も買うから1万6,000オロになるね。
この雑貨屋。僕は何かと困った時に通わせて貰っているが、売り上げは大丈夫なのだろうか。
馬車だって最低でも2万5,000オロは取るんだ。いくら雑貨屋と言えど、どれも単品で1万オロを切る安さ。まるで元の世界にあった百均だね。
「ありがとう。助かった」
「はいはい。またのご利用お待ちしております」
さぁ後はランシー森林にいってデトクス草を取りに行くだけだ。
「さて、早速着替えよう」
『え? ここでか?』
「なに、ちょっと怪しまれるだけさ」
ランシー森林に充満する毒ガスから身を守るための装備だが、森林周辺のどこからガスが漏れ出しているか分からない以上、事前に着替えて置くのは変では無いだろう。
僕は全身真っ白な防護服に顔全面を覆う黒い防護マスク。
グレイブは全身真っ黄色の防護服に黒い防護マスク。
一見してもどっちが誰なのか分からない程に隙間無くしっかりとした防護服だった。
◆◇◆◇ランシー森林◆◇◆◇
「ここがランシー森林かな」
ランシー森林は帝国から歩いて二時間程で着く場所にあり、森林の入り口だけを開けて、青色透明の障壁が森林全体を囲むように生成されていた。
よっぽど強いガスなのだろう。どうしてここまで強力なガスが充満したかは入って見ないと分からないかな。
『酷いな……無色のガスかと思いきや緑色のガスか。視界が悪すぎる……』
「足元に気をつけて慎重に進もう」
森林の中は一体どこから噴出しているのか。緑色のガスで視界が遮られ、足元も辛うじて見える程だ。
ここからどうやって毒沼を探せば良いのやら。こうも視界が悪いなら足に伝わる地面の感触を気にしながら当てずっぽうに探すしか無い。
そうして僕はただ本当に当てずっぽうに毒沼を探し回った。すると、案外早く見つけることが出来た。いや、そもそも探す程でも無かった。恐らくランシー森林がガスまみれになっている原因もこれだろう。
僕が探していた毒沼と思わしきそこには、大きな池があった。正に毒々しいと言っても過言では無い。紫色の池がそこにあった。
ボコボコと泡を吹かし、所々で浮き上がる腐敗した死体。そして腐ったガスが周囲の植物を汚染し変異させている。変異した植物は死体が宿す魔力により異常成長を果たし、自らガスを振り撒く物体に。またその植物のガスで環境汚染が巻き起こり、池の色と性質も変化。
最悪な悪循環でランシー森林は出来上がったようだ。
『植物まで魔物化するなんて……』
「こりゃ酷いねぇ?」
あぁ、何か入れ物が有ればこの池の水を有効活用できたかもしれない。まぁ、今は毒沼に群生するデトクス草が目的だ。
僕は池に腕を突っ込み、そんな薬草が無いか探してみる。
思った以上に深い。しゃがみこんで、地面に寝そべる勢いで腕を突っ込んでも底が見当たらない。
「あ、あれ?」
『まさか池底に生えているとでも言うつもりか?』
「まさか」
どうしよう。生憎鑑定スキルなんて都合の良い物は持っていない。もしかしたら周りに生えている変異した植物がデトクス草なのかもしれない。近くに植物に詳しい人でも居れば良いんだけど……。
なんてことを思えば助けてくれる人なんて現れる訳が無い。もういい。とりあえずここら辺の植物を片っ端から刈り取ろうかな。
「グレイブ。例え防護服を着ていても池に潜る訳にはいかない。ここら辺の植物を刈りまくるぞ」
『分かった』
そうして僕は巨大変異した植物に近づけば、植物は触手らしき手を伸ばし、人間の頭部のように変形した口を開き、毒液をぶち撒けて来た。
僕の固有能力【回避】はどこまでも便利だ。軌道を読むなんて出来やしないガスや液体攻撃さえも止まって見える。
僕は植物の懐に入り、恐らく喉に当たるだろう幹を。手足に当たるだろう葉の付け根を。引き千切る。
「キィエエエエアアァァッッ!!」
『植物が気持ち悪い悲鳴を上げるなぁ!』
ふとグレイブの方を見れば流石レベル40か。僕のような【回避】なんて使わずとも巧みな体術が毒ガスや体液を躱し、一撃一撃確実に打ち込み、敵を破壊していた。
ゴーレムの時は簡単に剣が折れてしまい呆気なかったが、こうして真面目に戦っている姿を見るとグレイブが皇帝としてどれだけ強いのかがよく分かる。
そうやってグレイブの強さもあってかすぐに終わった。池周辺の変異した植物を全て刈り取った。恐らくすぐに新たな植物が生えるだろう。
「うへぇ、こんなものギルドに届けて良いのかなぁ」
『魔物の部位と言えば伝わるんじゃないか?』
見えるもの全て刈り取った。だがしかし、薬草とは到底思えない歪な形と色。この中にきっとデトクス草も混じっているはずだ。
まぁ、ここでうだうだ言ったところで何も変わりはしない。
僕はとてつもなく不快だが、ドロドロとした体液が付着する植物をバッグに詰め込み、ランシー森林を脱出した。
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