第15話 仲間募集

 僕は次なる金稼ぎの為にまた一つの大きそうな依頼を受けた。今回は魔物討伐ではなく異常調査。といっても戦闘が一切無い訳でもないとは思うけどね。

 魔物討伐よりかは戦闘は少ないだろう。


 そして今回の依頼は難易度D。一人は非推奨というのだから最低でも二人は必要ってことだよな。と言っても僕は誰彼構わず声を掛けて仲間を作る気も無い。やっぱり出来るならギルドにお勧めの仲間を紹介してもらおう。という訳で僕はギルドの受付に聞いてみた。


「頼れる仲間を紹介してほしい、ですか。具体的にどういった方をご希望で? ギルド直々に冒険者を紹介することは出来ませんが、依頼掲示板に書いてあることと同じように仲間を募集することは出来ます。

 仲間の募集はこちらの紙に詳細を記入して下さい」


「なるほど、ならそうしよう」


 さて記入しよう。僕はそう思ったが何故かボールペンは愚か、羽根ペンすら用意されない。あれ? どうやって書くんだ?


「……?」


「……? あぁ! 魔式の行使は初めてですか? 一応、体内に魔力を宿している方なら誰にでも扱えるのですが……使った事が無いのなら今のでも簡単に教えましょう。

 とりあえず紙への記入方法ですが……ここでは音の魔式を使います。恐らくその首に掛けている通行証を作る際も見ていると思いますが、紙に手をかざして下さい」


 僕は言われた通りに紙の上から少し離れた位置に手をかざす。


「こ、こうか?」


「はい。そして軽く紙に対して文字を記入することを念じながら、言葉を発するんです。最初に仲間募集。とでも書いてみましょう」


「んー。『仲間募集』……」


 僕は呟く。が、何も起きなかった。


「あ、あれ? お、おかしいですねぇ。体内魔力を宿す方とは言いましたが、どんな方にも必ず宿っている筈なんですが……」


 なるほど。僕の身体は魔力も無縁って訳かい? なら今後、魔式という言葉は僕には無関係ということか。

 僕が唯一もっているのは固有能力【回避】のみ。レベルもグレートウルフを倒してから6に上がっているが、そのステータスを見てもオール1から6にしか上がっていない。

 つまり、ここに書いてある僕の魔力"6"という数字もきっと生活に必要な魔力さえ無いということなんだろう。


「どうやらその問題は僕のステータスに関係があるようだ。僕の魔力は6。そういうことなんだろう?」


「えぇっ!? 魔力6!? いえ、失礼しました。そうですね。例えレベル1の方でも魔力は最低でも10以上はありますね。

 音の魔式。『文字の反映』を行使するだけでも最低は30必要でして……レベル1の方が帝国周辺の"弱い魔物"を倒してレベルを最低5まで上げれば魔力は大体30前後まで上がります。

 つまりそこまで上げれば最低限の生活は可能ということになるのですが……」


 僕はレベルが上がった時のステータス上昇値を見れば計算上レベル30まで上げなくては文字の記入すら出来ないということか。

 さらに僕は受付さんの言った弱い魔物ではレベル上げの足しにすらならないんだ。

 一人で倒すことに勇者の力に匹敵すると言われているグレートウルフでさえ、倒してもレベルは6までしか上がらなかったんだ。


 これはもう自覚しても良いだろう。僕がレベルを上げるのに必要な経験値は異常だと。


「ごめん。もういいよ。代わりに文字を書いてくれないか?」


「は、はい。申し訳ありません。かしこまりました」


 受付さんは僕に謝ると心底しょんぼりした表情で僕がいう言葉に合わせて文字に記入を始めた。


 受付が紙の上に手をかざし、僕が言葉を発すると、まるで紙からインクのような文字が浮き出てくる。


 仲間募集 一人限定

 ヒューラック大墓地の異常調査依頼

 依頼者 カゲリ・ハク

『依頼難易度Dに初めて挑戦する冒険者だ。調査自体は僕に任せて、戦闘に慣れている者を募集したい。それと人の話を聞ける人間は最低条件だね。

 異常調査依頼の報酬は30万オロと、鎮魂のお守りという物だ。済まないがお金は一銭も分けるつもりはない。だから代わりにこのお守りでも売ってお金にしてくれ。

 という訳でよろしく頼むよ』

報酬:

・依頼成功報酬の『鎮魂のお守り』


「ふむ。これで構いませんか?」


「うむ。それで良い」


「それでは依頼掲示板に貼っておきます。大体仲間募集は引き受けてくれるまで一日程度掛かりますので、また時間が経ったら起こしください」


「分かった。そうするよ」


 僕は募集した仲間が来てくれることを待つために、今日は宿に泊まることにした。家に帰っても良いが、一日待つだけにわざわざ馬車のお金を払うのはそろそろ惜しい。

 僕の所持金はもう14万オロしか無いんだ。片道2万5,000オロ掛かる馬車に帝国に戻ってくるのに5万オロも掛かるんだ。そうすれば僕の所持金はとうとう10万を切ってしまう。それだけは避けなくてはならない。


 という訳で僕はギルドを出て、最寄りの宿で泊まった。一泊500オロという、今までの買い物の中で格安の中の格安だ。


◆◇◆◇翌日の朝◆◇◆◇


 僕はとても柔らかいベッド上で目を覚ます。あぁ、仮設ベッドなんかより断然に目覚めが良い。それに一泊の料金も安いのなら仮設住宅より本当に快適だ。

 ……。待てよ。僕の家が完成するのはまだ二ヶ月掛かる。必要な荷物も全てバッグに入っているんだ。家が完成するまで戻る必要は無いのでは?


 そうだ。正にそうだ。家に戻る必要は無い! 家具の購入も家が完成してから考える物だ。よしこれから僕の仮設住宅はこの宿に決定だ。毎日目覚めが悪いベッドで寝て、疲れが取れないのも健康に悪いからね。


 さて、仲間募集してから時間的には半日が経った。誰か引き受けてくれる人間はいるだろうか?


 僕はギルドへ向かった。


 ギルドに入ると、受付さんがニコニコ笑顔で僕を迎えてくれた。


「お待ちしておりました。ハクさん。一人の冒険者……というか貴族様が引き受けてくれましたよ。

 一応戦えはするようですが……報酬にある鎮魂のお守りに食いつくように募集を引き受けてくれまして……。で、例の方がそちらのベンチに座っている方です」


 受付さんが手を指す方向を見れば、そこには腰まで伸ばすストレートの金髪と整った顔立ちに、すらっとした体型に合った細身の白銀の鎧を上半身に纏い、下半身は白眼のブーツ。

 正に女騎士というに相応しい姿の美しい女性が座っていた。


 僕は彼女に歩み寄り挨拶をする。


「君が僕の仲間募集を引き受けてくれた人かな? 僕はハク。よろしく」


 が、彼女は腕と脚を組んだ姿勢から微動だにせず、目を開けると瞳だけを上に動かして僕を睨み付ける。

 それはとても怒った表情だった。


 どうやら性格は少しキツめらしい。

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