第14話 平穏を求めて

 僕は異世界で自由を求める為に大きな依頼をこなし、大金を手に入れ、家を買った。だが僕の求める自由とはまだほど遠い。

 次は更にお金を稼いで自由の空間を作らなければならない。家の家具を買って、ペットを手に入れ、よりよい自由のために人々の関係を結ぶ。

 あぁ、僕の異世界生活は順調に計画を進めている。


 当初は復讐なんて愚かなこともかんがえていたが、王国もあれから僕に手出しはしてこない。ならば、何不自由なく生きられる環境を作ろうでは無いか!


 さて、そのためにはまずお金が必要であり、ギルドで依頼を受けるのだが……僕はプレハブの家から出掛ける前にバッグの中を整理していると妙な物が出て来た。

 形は何かの角笛らしき形をしているが、『角』ではなく『獣』の頭が象られた笛となっている。僕はそれを暫く見つめているとこれが何かをはっと思い出した。


 狼の縄張り制圧依頼の報酬にあった『狼の遠笛』だ。

 と言っても使い方も分からなくちゃ持っていても意味がない。だから僕はこれを売ることにする。きっと良い値段になるだろう。政府が出した依頼だったんだ。安物な訳が無い。


 因みにこのバッグはお金やこれから手に入れる素材や物を収納、整理したいが為に家に帰る前に帝国の雑貨屋で買った物だ。

 なんとお値段5,000オロというので衝動買いしてしまった。

 そうと決まれば早速帝国へ行って売りに行こう。


 僕はプレハブの家を出ると、腰になんとなくぶら下げていた馬車の呼び鈴を取り出し、一回ちりんと鳴らす。

 本当にこんな音が馬に聞こえるのだろうか? 人間からすれば閉鎖された空間で耳を澄ませばやっと聞こえるような音だが……。

 何せ今僕がいる場所は草原のど真ん中であり、呼び鈴の音は当たり前かのように、風で掻き消される。


 それから大凡三分経過してもまだ馬は来ない。流石にこんな場所で鳴らしてもやっぱり聞こえないか。そう思っていたら漸く遠くから馬の蹄の音が聞こえて来た。

 高さ三メートルの全長四〜五メートルの一頭の馬が引く馬車が迎えに来た。

 すると馬車の運転士が息を切らしていた。


「いやーすまねぇ済まねえ。まさか馬車引いてからすぐに呼んでくるとは思わなくてな。さて休憩しようと思ったら急に馬が暴れ出してよ。んで乗っていったらあんたの家まで来たって訳だ」


「まさか自分の馬がここまで行くとは思っていなかったのかい?」


「いやーほんとに済まねえ。次からはもっと速くにくるよ。といっても別に帝国から来てる訳じゃあ無いんだぜ。目的地が帝国外の場合は、帝国の周辺に多くの馬車が拠点をつくって呼ばれるのを待ってんだよ。

 だからいつでも呼ばれれば速くこれるって訳さ」


「なるほど。じゃあ早速乗らせてもらおうか」


「あいよ毎度あり!」


◆◇◆◇ノルデン帝国・雑貨屋◆◇◆◇


 ノルデン帝国に到着。さて早速だがバッグを買った雑貨屋を訪れ、僕は狼の遠笛を店主に見せた。

 すると大変驚かれた。


「兄さん一体これを何処で手に入れたんだい!?」


「え? 何処と言われても政府の依頼報酬だ。その反応、これは相当価値のある物なのかい?」


「価値があるってレベルじゃないよ。売るなんて勿体ない! コイツは狼の遠笛と言ってな。帝国でも見ねえ"調律技師"って職人しか作れねえ物なんだ。コイツの場合は特に狼の遠吠えと限りなく近い音を出す事で、魔物の狼種を引き寄せ、又は手懐けることができるって代物だぁ。

 済まねえがここまでの物は買い取りたくても雑貨屋では扱えねえわ。政府の依頼報酬ってなんなら政府の人に直々に換金してもらうって言う手があるが……俺が勧めるなら冒険者に売ったほうが良いぜ」


 狼を手懐けられる笛だって!? こんな物をいつの間に手に入れていたとは。報酬の大金に目が眩んで全く気が付かなかった。これは手放す訳にはいかない。魔物を使役したいとも僕は思っていたからね。


 ただ何故雑貨屋がこれを売るなら冒険者と言うのかは理由は簡単だろう。

 今回これは政府から報酬で受け取った物だが、元はと言えば政府が仕入れた又は、手に入れたものだ。それを政府に換金してもらうとなればほぼ定価での売却になるからだ。


 雑貨屋もびっくり。冒険者の中でも欲しがる人が多くおり、作れるのは調律技師のみ。こんな話を聞けば、これの価値は相当にあり、もし帝国にオークションでも有れば定価なんてものを遥かに越える金額だと予想できるということだろう。


「それはいいことを聞いた。ありがとう。また来るよ」


「あぁ、また珍しいもんがあったら見せてくれ!」


 この笛はまた家に帰ったら試すことにしよう。まずは金稼ぎだ。僕はまだ冒険者でブロンズランク。ブロンズは難易度E〜Cの依頼を受けられる権利がある。


 依頼難易度によって素材収集にしろ魔物討伐にしろその厳しさが上がってくる訳だが、難易度Fは誰にでも出来る住民のお悩み解決や薬草の採取だ。

 そして難易度Eは初めての魔物討伐が解禁され、難易度D、Cはソロ非推奨らしい。

 つまり一人ではかなり厳しいということだ。


 ただ現状僕には最初に出会ったグレイ達以外の冒険者は信用出来ない。なにせ一目見れば分かる。ギルドに集う冒険者は金と欲望に塗れた柄の悪い冒険者が多すぎるからだ。

 ギルドは信用第一と言うが、冒険者同士が信用出来なければパーティを組むなんて以ての外だろう。逆にギルドが信頼できる冒険者を紹介でもしてくれないだろうか。


 さて、今回僕が選んだ依頼は……。


 難易度D 異常調査

 ヒューラック大墓地の調査

『ノルデン帝国東にあるヒューラック大墓地の管理人です。ここはノルデン帝国で今まで亡くなった方々を弔う由緒がある大墓地なのですが、場所が場所だけに亡者の霊魂が集まりやすく、夜な夜な骸骨が地上に這い出て徘徊しています。

 別に墓荒らしもしていませんしそれは良いんですが、最近その骸骨共の呻き声が特に煩く、朝見れば墓石が破壊され、土が掘り返され、中の棺が無くなっているという。

 完全に亡者を冒涜するようなことが日に日に起きています。どうか調査をお願いします』

報酬:

・調査し問題解決で30万オロ

・『鎮魂のお守り』

 

 墓地の異常調査。よなよな骸骨が徘徊しているとあるが、それを近くで毎日確認している管理人が襲われていないということは、おそらく墓を守っているのだろう。

 それでも尚、墓泥棒かぁ……。魔物討伐ならまだしも、今回のも時間が掛かりそうだ。

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