第13話 馬車

 「王国へ戻ったら僕が生きていることと、僕が無能では無いことを証明してくれ。僕が鬼堂君を倒したのを外から見ていたろう? 

 僕が直々に王国へ赴くより光輝君が今目撃したことをしっかり説明してくれればきっと信じてくれると思うんだ。

 それに君は勇者一行の中で唯一の真の勇者だからね」


 光輝君達を使って王国に僕は無能では無いと話を入れてくれれば、もしかしたら自由のための更なる支援を受けさせてもらえるかもしれない。

 まぁ、逆に王国の怒りを買う可能性あるけどね。その時はその時だ。


「別に良いけど、本当に大丈夫なのか? あくまでも影は王国を追放された身なんだぞ? それに本来なら処刑しようとしていたんだぞ?」


「そこは全部光輝君に任せる。いざとなったら僕を守ってくれ。勇者君は世界を救う義務があるんだ。人一人守るのも義務じゃないかい?」


「いちいち気に障るような言い方をするなお前は。分かったよ守るから」


「これは借金とは別だからな。あくまでも追放された身とはいえ、善良な国民からの勇者へのお願いなんだ。頼むよ」


 いやはや、追放された時はなんて理不尽なんだって嘆いていたけれど、最早勇者一行とは関係ない身になったのは色んな意味で幸運だったのかもしれない。

 自分が勇者ではなくともその一行に混ざるだけで何かと特別視されるからね。特別視されるからこそ一般とは別の扱いをされ、特に頭の硬い王国のお偉いさんは、勇者が一般的な思考を口に出せば尊敬の目が急に疑いの目に変わってしまうだろう。


 そこで逆に一般人は、勿論一般の思考を口に出せば王家はその名を穢さぬように真摯に言葉を聞き入れるだろう。

 さらに、一般人が勇者的な言動と行動を起こせばそれは栄誉的なことであり、僕の立場であれば汚名返上もあり得る。


 まぁ、一度王様から追放された身だ。んなことして汚名返上なんてする気は更々無いけどね。これから王国との信頼関係を結ぶのは別の方法でやるつもりだ。


「じゃあ借りたお金と影が生きていることの報告だね。お金は一週間以内に。じゃあ行ってくるよ」


 こうして僕は光輝君達と分かれた。わざわざ待たせる訳にもいかないからね、帰りの馬車は僕が渡した10万で払ってもらう。

 さて、これで僕の所持金は22万オロとなった。これだけでプライベート用の馬車の話をつけられるか分からないが、光輝君が金稼ぎの為に利用する馬車を約束を破って数日さえも使えないなんてのは、光輝君が一週間以内に金を返せる確率が下がるだけだ。

 早急に話をつけよう。


 僕はたまたま草原の道を走っていた旅商人の馬車に、普通の馬車と同じ料金を支払って乗せて貰い、帝国まで戻った。


◆◇◆◇ノルデン帝国・馬車組合◆◇◆◇


 馬車組合とは、馬車で扱う馬の管理と馬車の往復ルート、特別送迎を依頼できる場所で、送迎用馬車以外にも商売用の馬車や私有できる馬車の販売もされているらしい。

 そして僕が今からやることは往復ルートの設定だ。往復ルートは馬車が走ることを許されていない道や、冒険者の護衛が必要な危険な道以外は引けるようで、また冒険者の護衛が必要だとされる基準も定められているようだ。


 帝国と僕の家の距離は歩いて一日半だが大丈夫だろうか?

 僕は馬車組合の受付に声を掛ける。おっさんだ。カウボーイのような見た目をした口髭を生やしたおっさん。


「馬車の往復ルートを新しく設定したいのだがいいかな?」


「いらっしゃい! はいはい往復ルートの新設定ね! どこからどこを繋ぐんだい?」


 僕は受付カウンターの側に置いてある箱にさされた丸められた地図をカウンターに広げて説明する。


「帝国の外だから地図を見てほしい。此処が帝国で……ここからここだ。此処に僕の家が建つ予定だから。この間をこれから徒歩で往復して暮らすというのはあまりにも不便だ。

 お金は払うからこの間に馬車を引きたい」


「なるほどね。大体歩いて一日半ってところかな。いいよぉ! これくらいなら問題無い!」


「因みににどれくらいならアウトなんだい?」


「そうだねぇ。あんまりここらへんはしっかり決まっている訳では無いんだけど、魔物に襲われる確率と馬車の移動時間は比例するから、大体馬車でも二日以内で到着できる距離を目安にしている。

 で、逆になんで二日以内が良いのかと言うと、殆どの魔物は嗅覚と聴覚が敏感だから、朝から移動したとしても夜には休憩するって馬車組合ではルールなんだ。


 それでもそれを何度もやっていると魔物達は何処で馬車が走っているのかを特定し、襲ってくる確率はどんどん上がってくる。だから、馬車組合では二日以内が大体の目安にしている。

 三日以上掛かって尚且つ冒険者の護衛が必要なタイプは直々に冒険者に依頼を出してくれって訳さ」


「なるほど。ありがとう。ではさっき言った通りのルートでお願いしよう」


「あいよ! じゃあ料金は5万オロだぁ!」


 僕は更に減っていく所持金を惜しみながら、受付のおっさんにお金を渡す。


「はい。丁度貰いましたっと! はいはいじゃあ後はこっちで手続きしておくから明日には馬車は引けてるよぉ。それと! これもあげよう。

 プライベート目的で往復ルートを設定する人は他にも多くいてねぇ、馬車の操縦者たちも誰がいつ馬車に乗りたいかなんて分からないだろう?

 だから、これだ。呼び鈴だ。

 これを鳴らせば担当の馬車の馬がこの音を聞いてしっかりと迎えにきてくれるようになるよぉ〜。これは無料だからありがたくうけとりたまえ!


 あっと一応言っておくが、設定していない位置から呼び出しても此処の馬は頭がいいからね。決して往復ルートから離れすぎた場所へは行かないんだ! わかったかなぁ? それをやりたいなら、個人用の馬車を買うしか無い。高いけどね!!」


「分かってるよ。個人用の馬車なんて贅沢の極まりじゃ無いか。まぁいつかは買いたいけどね。今回は往復ルートの設定だけでいいよ」


「はいよ毎度あり!」


 ふむ。これで馬車の往復ルートの設定は終えた。さてこれからはやっと僕の望んだ自由な生活が始まる。まずはお金をまた稼がないと。今の所持金はたったの17万オロ。

 本来戦ったり、勇者達にとっては装備や食料の調達にこれだけのお金で十分なんだろうけど、僕の生活には食費や装備費以外にも沢山のお金が掛かる!

 またギルドに行かなくては。また大きな依頼はあるだろうか。

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