第12話 再会
◆◇◆◇翌 日◆◇◆◇
僕はプレハブ住宅に架設されたベッドで目を覚ます。妙に跳ねるこの感覚も慣れるのに時間が掛かりそうだ。
そして帝国を出る前に買い溜めしておいたパンと牛乳で朝ご飯を済ませる。
あぁ、異世界でもこんな普通の生活が出来るとはなんて幸せなんだろう。
さぁこれからはまた帝国に戻ってお金を稼いでも良いけど、もう少しこの感覚を味わう為に、少し遠くへ行って魔物を狩ってレベル上げも良いな。
なんなら魔物を手懐けることも出来そうだ。近くにいる魔物は大体狼の魔物だからね。まぁ、犬と思っても変わりは無いだろう。
さて朝の体操でも行こうか!
そうして僕はプレハブ住宅の外へ出ようとドアの前に立った瞬間、時が遅くなった。
え? 敵? どこだ?
僕は今目の前のドアが勢いよく吹き飛ぼうとしている所を目撃する。危ない! と僕は体を横へずらせば時は動き出す。
プラスチックのような素材で作られたドアが物凄い速さで吹き飛び、僕の目の前を通り過ぎて、壁に衝突した。
「かーげーりーくーん? こんな所でのんびり暮らして良い気持ちだなぁ?」
「うん。とっても最高の暮らしだ。それはそうと、これは久しぶりだね。たしか名前は鬼堂くんだったかな?」
なんと僕の目の前に現れたのは僕と一緒に転移したクラスの一人、鬼堂正晴(きとう まさはる)だった。
しかも僕の家の前には勇者のグループ1として分けられた光輝、茜、玲香、康太郎くんもいるじゃ無いか。
勇者一行たる者たちが僕に何の用だろうか?
「おうよ。俺は鬼堂だ。でよ、再会を懐かしむのはどうでも良いんだ。ちょっとさ俺らに金くんね? 仲間の康太郎がさ要らねえ事に金使ったせいで、今馬車で帰ると俺らすっからかんになっちまうんだ。
お前さ、確か昨日辺りに大金を稼いだんだってな? だからさぁ、50万。そんくらい俺らに分けてくれよ」
なんだ。ただのカツアゲか。他のみんなは何故止めてくれないんだろう。あぁ、鬼堂君は暴れ出すと誰も止められないんだっけ?
「あぁ、ごめん。実は昨日に家を買っちゃってねぇ。実は50万も無いんだ。しかも、これから家具とかも買う予定があるし、一銭もあげることは出来ない」
「そうかよ。ならてめえを此処でぶっ殺すしかねぇな? 全財産置いてけ。でないと分かってんだろ?」
そうそう鬼堂はこんな性格だった。なら僕も黙ってお金を奪われるつもりは無い。鬼堂くんを諦めさせよう。
「あー分かった分かった。君の望み通りにしてあげよう」
「ほーう? 随分と物分かりが良いじゃねぇか。それで良いんだよ。さ、金を渡せ」
「なんだって? 違う違う! 僕は君に僕のことを殴らせてあげると言っているんだ。どうせ異世界に来てから嫌なこと続きでそんなに荒れているんだろう? ならその苛々を今此処で晴らすが良い。
さぁ、本気で殴ってくるんだ」
「てめぇ……マジでぶっ殺されてぇようだな? ふざけてんじゃねぇぞ! オラァ!!」
時は遅くなる。そして最小限の動きで避ける。そうすれば時は動き出す。
「なっ!? てめぇ! 避けてんじゃねぇッ!」
「どうしたんだい? 鬼堂君って喧嘩は強いって聞いてたんだけどなぁ? 掠りもしないじゃないか。 ほらほら」
「クソックソが!! この、この野郎!」
僕は避ける。避ける。避ける。
いやー固有能力さまさまだねぇ。
「クソがあああ!! オラァ!!」
遂に鬼堂君は武器を使ってきた。僕の家の隅っこに置いてある箒だ。でもそれでも僕には当たらない。動きは激しくなるけどまだ避けられる。
「おやおや? 拳の喧嘩に強いと言われていた鬼堂君が武器に手をだしたねぇ? これは相当効いているのかな?」
「うるせえ! お前が、避けるのが、悪いんだろうがぁ!!」
ふむ。なかなか諦めない。なら少しだけ反撃しようかな。手加減、ずっと手加減してっと。
僕は箒を何度も振り抜く鬼堂の懐に、時が遅くなっている時に入り、軽く腹にパンチを入れる。
「がはっ!? ゔっ……てめぇ、今何しやかがった……」
「何って、ちょっと反撃しただけさ。いつまでも鬼堂君が諦めないからさぁ」
「調子に乗ってんじゃねぇぞ……マジでぶっ殺してやる! オラァ!!」
次は箒での刺突攻撃。でも僕には問題ない。全部見える。僕はそれを避けると、鬼堂君との距離を詰め、軽く胸を手で押す。
そうすれば鬼堂君は向こうの壁まで吹き飛んでしまった。
「んーこの固有能力は手加減が難しいなぁ。でも、人間相手だとそれがとても分かりやすい。まぁ、二度とこんなことやりたくないけどね」
「クソォ……はぁ……俺はなぁ、今までの喧嘩で、負けた事はねぇんだよおおおおお!!!」
壁から起き上がる鬼堂君は物凄い速さで僕の顔面に向かって拳を振るう。僕の能力でスローにはなるけど、流石に能力にも限界が来たようだ。もう少し反応が遅れていたら僕の頭は吹き飛んでいただろう。
でもこれくらいのスピードなら避けられる。
でもこの速度といい力は完全に僕を殺しにかかってる。だからそろそろ鬼堂君には気絶してもらおう。
僕はスローになっている時に鬼堂君の拳を避けると、背後に回り込み、全力で手加減した手刀を後頭部に打ち込む。
お願いだ。首、折れないでくれよ?
「おっと危ない。でも君はそろそろ休んでいてくれ」
「がッ!? ──────」
良かった成功だ。鬼堂君は一撃で気絶してくれた。
「ふむ。えーっと光輝君だっけ? 早くこれを片付けてくれないかな?」
「え? あぁ、うん。済まないな影。俺ら本当に金がなくなっちゃってさ。少しでもお金が欲しかったんだけど、鬼堂が暴れる結果になってさ」
金が無いのは事実か。鬼堂君相手にはどうもお金を渡す気にはなれなかったけど、光輝君達なら渡してもいいだろう。
「もう仕方が無いなぁ……最低で幾ら必要なんだい?」
「そうだなぁ。この世界って結構物価が高いから……10万、いや5万でも良い! 食べ物や装備も買わなくちゃいけないから! これだけ有ればまた稼ぎを再開できる! こんな頼み方はもう二度としない!」
「んー10万かぁ……じゃあ今度返してくれるかな? 僕はこれでも今30万しか無いんだ。この10万で馬車代を入れれば、残り75,000オロになるけど、仕方が無いから君たちがお金を返してくれるまで、王国から僕の家まで無料で引いてくれる馬車を手配しよう。
それをすると馬車の運転士さんもタダ働きになっちゃうから期日は一週間だ。
もし一週間過ぎても君達が来ないなら僕が直々に回収しに行くよ。
そして、君達には悪いけど、返すまでに掛かった日にちの馬車の運転士さんの給料も足させてもらおう。
つまり、一週間丸々返せなかった場合、10万+17万5,000オロだ。これから働いて貰う馬車の運転士さんとも仲良くしたいからね」
「えぇ、本当の借金みたいじゃないか。まぁ、異論は無いけど……わかった。全力で稼いで返すよ」
「よし、交渉成立だ」
さて、朝っぱらから大変だったけど、自分も毎度帝国まで歩くのは面倒だからね。馬車の目的地に僕の家もプライベートとして引かせようとしてたんだ。
街に出掛ける時に家まで馬車が迎えに来てくれるなんて夢のようだろう?
まぁ、お金は払うけどね。いつか常連とかになって無料パスとか貰えないかなぁ。
という訳で僕はとりあえず今は帝国まで歩いて馬車組合に話をつけようと思うんだけど……光輝君に呼び止められる。
「そうそう! 待ってくれ! 俺達は実は魔王の討伐はそっちのけに追放された影を助けようと思ってんだ! でもその心配は無さそうだね」
なるほどそれは良いことを聞いた。僕は今良いことを思いついた。確かに心配は無いけど、今此処で光輝君達を返すのはもったい無さすぎる。
「なるほど。確かに心配はいらないが、君達に一つ頼みたいことがある」
「ん? なに?」
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