第11話 自由
僕はただ単にお金をコツコツ稼ぎ、家を購入する為に多くのギルドの依頼を達成するつもりではあったが、本来は難易度Eの依頼を過剰に達成したため、なんと一度に152万8,000オロも稼いでしまった。
この世界の家の値段は分からないけどこの金額を見るとすぐにでも家の値段を確認したくなる。
ギルドの関係者に聞けば、家の購入は一から土地を買って建築してもらうか、既に建ってある家を購入するかの二択らしい。
普通に考えれば土地に家の建築代金、建築士を雇うお金にその他色々掛かるため一から家を建てる方法は、後者より金が掛かる。
たが僕としては帝国という厳しいルールに縛られて過ごすより、どこでも良いから長閑な草原の一部を買って別荘という物を建てたい。
という訳で僕はまた帝国の政府に話をしに行った。次はギルド関係ではないので、自分から政府機関に趣く。
流石は帝国兵達だ。政府機関の中にはあんなに優しそうなお兄さんがいるのに、外は物々しいと言っても過言ではない。分厚い鎧を全身に纏い、等身大の剣を常に鞘から引き抜いて地面に垂直に立てる様。
そんな兵士がずーっと動くことなく政府機関の建物の前に立っている。
僕はさぁ中へ入ろうとすると、案の定呼び止められる。
「おいそこ、何勝手に入ろうとしてんだ? あ?」
警備兵とはとても思えない言動。こりゃ帝国民達が兵士に怯える訳だ。だが僕はこんな言葉じゃ怯まないね。何せこの能力は僕を助けてくれる物でもあるんだから。
「あ、ごめんねえ。何処かで許可を取った方が良かったかな? 僕はこの中にいるお兄さんに会おうと思ってるんだけど。つい数時間前も既に顔を合わせているんだ。
会わせて、くれないかなぁ?」
「お兄さん……? ヴァン・クラトレス執政官の事か? あいつも舐められたもんだなぁ……お兄さんとか……ぷっ」
「えぇ、執政官だったのか。そんな人を笑うって君も凄い度胸だね」
「はっ、お前はこの国の立場ってもんを知らねえ様だな。この帝国は軍人こそが頂点に立つんだ。俺らの力が無くちゃあアイツも今頃死んでるよ。
ま、執政官って言えば俺らより一個下だな。だから今は威張っているのを見逃してやってるが、もし執政官をやめたら今までの恨みを晴らしてやる」
「恨み?」
「あぁ、アイツは俺らを戦地に送ったり、命令したり、今でもこんな警備をさせているんだ。アイツは俺らに多すぎる罪を犯した。これは万死に値するよなぁ?」
帝国兵士とは僕が思うより恐ろしい程にプライドの高い生き物だった。じゃあそんなにプライドが高いのにどうして兵士なんかになったんだろう?
「ふーん。ならどうして兵士に入ったんだい? 兵士以外なら命令なんて受ける必要なんて無いのに」
「兵士は金が一番稼げるんだよ……何もせずとも毎月がっぽり金が稼げる。ゴミ共(冒険者)が幾ら頑張っても届かねえくらいのなぁ?
ヒッヒ、お前はそういえば帝国外の埃らしいなぁ? お前も兵士になったらどうだ? 埃だから馬鹿にされると思うが、今までとは考えもしなかった豪遊ができるようになるぜぇ?」
僕はそんな兵士なんかにはなりたく無いね。と言ってもこれは単なる偽善になるけど、働かずに何もせずに手に入れたお金で豪遊なんかしてもきっと満足感は得られないだろう。もしそんなことを始めたら、僕はどこまでも堕落してしまうかもしれない。
でもこんなこと言ったら絶対殺されるので話を合わせようじゃないか。
「へぇ、それはすごいね。でも僕にはどこまでも堕落してしまいそうな生活は向いていないようだ。僕は君たちとは違うんでね。戦地に送られるなら尚更だ。僕は少しでも危険は避けたいから」
「へっ、言うじゃねぇか。この俺たちに皮肉をいうとはなかなかの度胸だ。気に入った! 中に入れ。てめえのことは帝国兵士全員に教えてやる。せいぜい殺されないように隠れてるんだな」
おっとこれは予想外な反応。まさか馬鹿にされるのは嫌うけど、立ち向かってくるのは嫌いでは無いようだ。
きっと誰に対しても国民達は畏まるから苛々が溜まっていたんだろうねぇ。
「フフフ、僕を殺せるもんなら殺してみろって挑発しようか? 君達は意外と面白い生き物なようだ。すこしだけ扱いが分かったような気がしたよ」
「はっ、そうかよ。なんなら今すぐ俺の視界から消えるんだな。つい手が滑りそうだ」
「あぁ、ありがとう。僕は行くとするよ」
僕はなんとか政府機関の建物に入った。建物を中の巡回兵に執政官の名前を出しては面倒な会話に持ち込まれ、場所を聞き出しては何度か兵士に睨まれ、普通の人なら一人目の時点で怯えそうだ。
僕はなんとか執政官の部屋にたどり着いた。僕は執政官の部屋の扉をノックする。
「入ってくれ。ハクくん?」
「やぁ、なんで僕だと分かったんだい?」
「いやぁ窓から君が正門の兵士と話し込んでるのを見かけてね。驚いたよあそこまで兵士の態度を受け流せる人がいるなんて。
さぁ、座ってくれ。あの時は名前も言わなかったからね。自己紹介しよう。
私の名前はヴァン・クラトレスだ。このノルデン帝国の内政の最高責任者。執政官を務めている。君がどれだけこの帝国に居るかは分からないけど、それまでよろしく」
クラトレスは自己紹介を終えると僕に笑顔で握手を求める。僕はそれに笑顔で返して握手した。
「さて、ハクくんは僕に用があって来たんだろう?」
「そうそう。僕は政府の依頼をこなしたことでなんと合計152万オロも稼いでしまった。だから住居の相談をしたくてね。この国の家がどれだけの値段かは分からないけど、とりあえず見積もりだけでもしたくてさ。出来れば土地から購入したい」
「なるほど152万オロねぇ。本来ならそれだけのお金じやぁ土地の購入もままならないけど、ここは特別に無償にしてあげよう。
我々政府としてはあの依頼は冒険者にとって簡単に多く稼げる特別な依頼だったからね。ハクくんがまさかの帝国周辺全ての縄張りを制圧してしまうとは思わなかった。だからハクくんは私たちに多大な貢献をした。
報酬はあくまでも形式上の計算によるものだったからね。まだ我々はお礼をしていない。
だからもし君が望むなら、土地の購入と建築士の雇い金を免除し、家の値段を半額にしよう。これならハクくんの152万でギリギリ足りる筈だ」
これでもギリギリか。でもこれ以上は悩む必要はないかな。これからもっとお金を稼いで良い家を目指してもいいけど、僕のとりあえずの目標は家を手に入れて不自由無く生活することだからね。
「なるほど。ありがとう。ならそれでお願いしようかな。もう少しお金を稼いでもいいけど、君達の恩は今受け取っておこう」
僕はこれで執政官に話を付けた。家を建てる場所は帝国から歩いて一日半掛かる距離にある草原とし、建築士はノルデン帝国で屈指の腕の良い人達をくれた。
そして家の購入に掛かったお金は半額で120万オロとなった。それでも所持金は30万程残った。これだけ残るなら家具の購入も少しは自由が効く。きっとこれも考えてくれたのだろう。
そして、家の建築は今から始めれば完成は二ヶ月後という話になった。その間は簡単にプレハブの仮住宅を建てて、そこで暮らして欲しいようだ。
そのプレハブ住宅はまるで事前に組み立て用のセットがあったのか半日で完成してしまった。
◆◇◆◇プレハブの家◆◇◆◇
んー快適とも言えない微妙な住まいだ。広さは細長い七畳程で、過ごす分には特に不自由さは感じないが、柔らかい素材で作られた白い壁と床は触り心地がブニブニとしており慣れるまで時間が掛かるだろう。
でも窓から見える景色は長閑な草原が一面に視界に広がる。いつか犬とかのペットも飼いたいな。こんな長閑な場所で犬とはしゃぐ毎日は幸せにも程があるだろう。いや、最高だ。さぁて、これから次はどうしようか。
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