第16話 ヒューラック大墓地

 僕はギルドで依頼を達成しやすくする為に仲間募集で一人の女貴族を仲間にした。

 ただ貴族と言うには似つかわしくなく、身なりからして女騎士と言っても過言では無かった。

 ただ彼女は僕の仲間募集に依頼難易度や、冒険者に成り立ての僕に対して善意で引き受けてくれたのではなく、あくまでも報酬が目当てだった。

 その報酬とは『鎮魂のお守り』というものなのだが、どうも彼女はそれに飛び付いてきたらしい。物の名前からして霊魂を鎮めてくれそうだが、そんなに必要な物なのだろうか?


 僕はギルド内の椅子に脚を組んで座った彼女に歩み寄り挨拶したが、とてもキツい目で睨まれてしまった。こんなので今回の依頼、やっていけるだろうか?


 僕は彼女と一緒にヒューラック大墓地行きの馬車に乗った。どうやらこの馬車のみ無料で乗れるようで、これ以上所持金が減らないことに僕は少し安心した。

 馬車での移動中も、僕は彼女と一言も言葉を交わしていない。


 そうして大墓地に到着すると、馬車から降りた時、彼女は初めて口を開いた。


「エリナ・クラトレスだ。足手まといになるなよ」


「おっと、僕はカゲリ・ハク。改めてよろしくね」


「貴様の名前などに興味は無い。あるのは報酬のみだ。異常調査をするのだろう? 早く行け」


 いちいち嫌な言い方するなぁ。たしか貴族なんだっけ?

 それでも今回は僕が依頼者なんだ。本来の依頼者はここの管理人だけど、僕は仲間募集において"初めてだから"と援護して欲しい趣旨を伝えてある。だがら、現在の立場としては僕が上にある。


「僕はカゲリ・ハクだ。僕は君がどれだけ強いのは知らない。でもちゃんと守ってくれよ? 冒険者だけど戦闘もそう得意では無いんだ。それに、今の君に僕に対して偉そうにする立場は無い」


 大墓地の管理人の所まで歩く途中、僕の発言に彼女がギロリと僕を睨んだ。気がした……。

 いやはや正確に言えば確かな殺気を感じたね。やっぱり貴族とは偉そうな生き物。そんなイメージはこの世界でも間違ってはいないようだ。


 そうして僕は大墓地の管理人の小屋に到着した。その小屋はどこからどう見ても人が暮らしているようには見えない木造のボロ小屋で、一応僕は扉をノックする。

 すると中から歳は六十前後か、深い皺のある顔に、顎に小さな白髭を生やした優しそうなおじさんが出て来た。


「あぁ、あなた方が、依頼を引き受けてくださった冒険者様ですか。私は、此処ヒューラック大墓地の管理人をやっております。ヴィル・レキエムと申します。よろしくお願いします」


「うん。よろしく」


「異常調査なのだろう? 場所は何処だ。早く教えろ。悪党ならすぐに捻り潰してやる」


 あれ、エリナさんは依頼内容を詳しく知らないのか? 異常調査する場所はこの大墓地全体だというのに。


「エリナさん、今日はこの大墓地全体だ。それに敵も現れるかもしれないって話しだから。君が魔物をぶっ殺したいのは分かるけど、落ち着いてくれ」


「くそ、お前に何が分かるというのだ……」


 という訳で僕は早速、管理人さんに事情を聞こうと思う。


「それで、確かここで夜に徘徊する骸骨が最近煩いと思ったら、朝見たら墓石が破壊されてるんだっけ?」


 ここでエリナが口を挟む。


「なんだそんなことだったのか。それならその骸骨の仕業では無いか。なぜこんなに簡単な問題で依頼を出した。

 ならば今日の夜その骸骨を殲滅しよう。報酬は前払いだ。早く渡せ」


「え!? いやいやそれは有り得ません。骸骨はあくまでも此処の大墓地で埋まっている方々なんですよ」


「ふん、此処まで大きな墓なのだ。悪霊がいても可笑しくは無いだろう」


「いいえ。それもあり得ません。そもそも悪霊になり得る方は此処には埋まっておりません。特になんらかの罪で処刑された方は別の墓に埋まっております故」


「ならば! その処刑された悪霊がここへ来たのだろう! 下らん。はやく報酬を渡せと言っているだろう!」


「落ち着きください! そんな簡単に解決されては困ります。それに、例え悪霊と言えど自分の行動可能な範囲ぐらいは決まっております!」


 あーあ。なんか言い合いになってるよ。このレイナっていう貴族様は馬鹿なのかな? 仕方が無い下がらせよう。


「エリナ。もう良いよ。君は下がっててくれ。僕が話を聞くから。敵が来たら呼んであげるから」


「なんだと貴様ッ!!」


 その瞬間、僕の耳に空気を切り裂くような音が聞こえた。

 そう、エリナの剣が僕の耳の横を通り過ぎたんだ。恐ろしく早い刺突。僕じゃなきゃ見逃しちゃうね。


「わーお」


「ほう、私の攻撃にビビらないとはなかなかやるようだな。私が貴様の頭を突き刺すとは思わなかったのか?」


「いいや? 単に反応出来なかっただけだけど? 君が殺すつもりなら今頃僕は本当に死んでいただろうなぁ」


 実際エリナの刺突は本当に反応が出来なかった。いや、能力が発動しなかったとも言える。恐らくそれはエリナが僕の頭を突き刺すつもりが無かったからだろう。

 ここで僕はこの能力をまた一つ理解した。この能力、その攻撃が本当に自分に対する攻撃では無かった場合は発動しないんだ。つまり、安心しても良いって事だね。特に気にすることでも無いかな。


「……。ふん、もういい。早くしろ。話を聞くんだろ?」


「はぁ〜あ、君は疲れるなぁ。はいはい、今度は口を出さないでね。ええっと。とりあえず骸骨の仕業はあり得ないとして、泥棒の仕業って可能性は?」


「はぁ、私も少し考えたのですが、それも考えにくいのです。冒険者様が骸骨の強さをどれだけのものかと知っているか分かりませんが、例えごく普通の剣士。ゴールドランク以下の冒険者が一人で骸骨の群れに立ち向かっても、骸骨は生憎『不死』の特性を持っておりまして、倒しても倒しても実質キリが無いのです。


 また、ゴールドランク以上の腕に自信がある冒険者なら剣一振りで骸骨を蹴散らせそうですが、そんな騒音聞いたことありません。

 つまり、そこに墓石を破壊する暇なんてありましょうか。此処の骸骨は特別なことに、悪意ある人間しか襲わないのです。本当に墓参りしに来た人間は襲わないのです」


 んーもうこれは管理人さんに聞いても何も情報は得られなさそうだ。特に今の時間は昼。問題の夜を待とうか。


「ありがとう。じゃあやっぱり問題の夜を待って何があるか待ち伏せするしか無いかな。レイナ。僕に襲いかかってくる骸骨は任せたよ」


「あぁ、分かっている。不死だろうが何だろうが叩きのめしてやる」


 という訳で僕はわざわざ帝国に戻るのもアレなので管理人さんの小屋で夜を待つことにした。


◆◇◆◇夜間◆◇◆◇


 僕は管理人さんに優しく肩を叩かれて目を覚ます。それと同じように昼寝していたエリナも起こされるが、寝ている体を起こされるためだけに触られた事にブチ切れていた。


「ふぁ〜あ、ありがとう管理人さん。いやぁ、本当に骸骨の呻き声すごいねぇ」


「貴様ッ! 私の体に何をする!!」


「ひぃっ!? 申し訳ありません。起こしただけございます」


 夜起きれば管理人さんが言っていた通り、爆睡していれば気付かないかもしれないが、さぁ寝ようとこの声を聞きながら寝るのは少々難がある程度だった。

 骸骨の呻き声が数匹ではなく、数百を超える数がドアの前で苦しんでいるような声をだすんだ。僕ならこんな生活、絶対不眠症を起こすね。

 さらに、怨念か何なのかわからないけど、この小屋自体も結構ガタガタいってる。


「さて行こうかエリナ君」


「あぁ……」

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