勇者視点・その1
彼の名は
異世界に転移しても特に混乱することなく、目の前の王に膝を着き、魔王を倒すことと王に忠誠を誓うことを約束した者である。
異世界転移し勇者一行としてあげられたのは全四十人。流石に一斉移動には多過ぎるので、五人ずつでグループ分けされ、全部で八グループ。
一条光輝のグループには
この五人で魔王倒すべく、レベル上げに冒険へ出かける訳だが、光輝は唯一無能として追放された一人の事を気にかけていた。
無能呼ばわりされ他の生徒からは嘲笑われ、挙句の果てには牢屋に入れられ、国外追放という判決に至るまでなってしまったこと。この世界での国外追放は実質死刑であることは光輝にも分かっていた。
ただそれさえも気づかず彼の事を嘲笑う他の人間達に光輝はただならぬ不快感を抱いていた。
そうして五人で準備を終えた後国を出発した光輝は王宮内で言えなかったことを怒り混じりで発言する。
「国外追放だなんて、そこまでする必要あるか?
地団駄を踏み怒りを露わにする光輝。王宮内でも反論はしようとはしたが、それを察されたかのように王様に発言を止められてしまったのだ。
それを口にすれば貴様も反逆罪として扱うぞと釘を打たれるように。
そしてそんな怒る光輝を抑え、同じ考えを持つ仲間は光輝の彼女である茜のみだった。
「光輝くん大丈夫だよ。影君ってさなにかと存在感って言っちゃ悪いけど結構薄かった方だよね? それに影君が何かにトラブルに巻き込まれる様子も見たことが無いし、ましてや毎回上手い具合に巻き込まれることを回避してたよ! きっと今回も大丈夫。それとこれは別かもしれないけど、すぐに死んじゃうなんてことにはなっていない……筈だよ」
例え反逆罪になってでも止める勇気が自分に有れば、影を救うことはできたかも知れない。そう深く後悔する光輝だが、茜の言う通り、今は不吉なことは考えず、影が生きていることを祈るのが懸命だと。そう考えるしか出来なかった。
しかし鬼堂と如月と岩井に関しては意見は真逆であり、学生の時は仲が良かった者達でも、初っ端からギスギスしてしまう。
「はっ雑魚は所詮雑魚なんだよ。足手まといになるくらいなら死んだ方がマシだろ!」
「私、あの方のことあまり知りませんし、死んだ所でなんとも……」
「グフフフ……これは面白いことになるぞー。我の見解としては影は必ず復讐に来るだろう。生きているとは限りませんが、この展開は正に追放された者が復讐しに来るパターンですよぉ!」
なにも人が死ぬことなんてざらにあることだと。例え知り合いでも仕方がないことだとさらっと話を流すことに光輝は項垂れる。
「どうして同じ人間なのに……そんなことが言えるんだ……俺には全く理解出来ない」
そこに鬼堂が追撃を入れる。
「同じ人間だと? じゃあお前は見ず知らずの人間の死を一人一人悔やむってのか? 馬鹿か? 俺はお前の性格はよーく知ってるだがよ……」
「影は見ず知らずの人間じゃないだろ! 同じ学年の生徒だ。例え話したことが無いにしろ俺達にとっては身近な人間だ」
「だから何だってんだよ! 人が一人死んだくれぇでうるせぇんだよ! だぁーイライラしやがるクソッ!」
そう歩きながらもぶつかり合う鬼堂はそのストレス発散に周囲に魔物をぶっ飛ばすと叫ぶ。が、ここで鬼堂は目の前の光景に足を止めた。
「んだありゃ?」
「なんだよ……」
先頭を走ろうとする鬼堂が突然立ち止まるので光輝は気づかず鬼堂の背中に打つかる。光輝も怪訝な表情を浮かべる鬼堂の目の先を見れば唖然とするのだった。
目の前には狼の死骸が無数に転がっていた。しかし斬られたりした傷は無く、全て鈍器か殴られて絶命していた。
それも数十匹ではなく、道なりに百匹近くの死骸。
ただ一匹たりとも血を流しておらず、例え鈍器で殴ったならそれはそれは惨い光景になるはずだ。ただしそこには若干の手加減が感じられた。
一匹の死骸に鬼堂が近付いてしゃがみ込む。
「こいつぁ、死んでから数日は経ってんな。と言っても二〜三日程度だが……もう食えねえな」
「食うのかよ」
「はっ売店に保存食料として狼の肉売ってたからな。こいつらのことだろ」
その光景をみる茜が口を開く。
「ねぇ。こんな所にいつまても放置されていちゃ可哀想だから一匹ずつ埋葬してあげない?」
「そうだな……みんなも手伝ってくれないか?」
「くっだらねぇ。俺はこんな死骸なんて触りたくねえ」
「仕方が無いわねぇ。はいはい」
「むむっこの行動によって狼の魂は報われるってことですなっ! きっとこれがイベントのフラグに……」
そうして鬼堂を除く光輝達は茜の提案により狼の死骸を一匹一匹すべて埋葬した。
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