第7話 依頼

 僕は三人の冒険者グレイ、バル、レイカの案内によって冒険者ギルドにて正式に冒険者となった。

 

 先ずは最小限のこれから生きていく為の資金を稼ぐつもりだ。何をして生きるのかと問われるなら、願わくばただ平穏に危険無く、勇者だったということを忘れる程に暮らして行きたい。冒険者としてお金を稼ぎながらね。


 冒険者登録後、僕はギルドの建物の外でグレイ達と合流する。合流まで多少時間のズレはあったが、グレイ達もすぐに依頼を終わらせ、僕と合流した。

 グレイ達が引き受けていた依頼だが、難易度Eの『狼の群れ討伐』だったようで、何処かの誰かが大量に殴り倒した事で思いの外すぐに終わったらしい。


「あ、ハクさん。冒険者になりましたか? 早速依頼は受けてみましたか?」


「うん。適当だけど、今はスチールランクだから難易度Fの依頼しか受けられないから本当に適当に選んだよ。えーっと確か、薬草の採取だったかな。あーこれこれ」


 僕はポケットに折り畳んで入れておいた依頼書を取り出してグレイに見せる。

 そういえば僕ってまだ学校の制服のままだったなぁ。これでお金を稼いだら適当に服でも買おうかな。いつまでも珍しい服だからって注目されるのも面倒だし……。あと着心地悪いし……。


「ふむふむ薬草の採取ですか。それも薬草の指定無しっと……なら此処を出てすぐ近くにリカバ草って薬草の群生地があるからそこで取ろう」


 リカバ草。単純に回復できる草なのかなぁ。


「うん分かった」


◆◇◆◇ノルデン帝国外◆◇◆◇


 僕は依頼を完了させる為にリカバ草なる薬草が生えている場所に行った。そこには雑草とも言える草がモサモサに生えていた。


「え、アレ全部リカバ草?」


「うん。リカバ草って気候とか関係なく育つからね。結構何処にでも生えてるんだよなぁ」


 どこでも生える草。ならきっと安ーい薬なんだろうなぁ。そういえばどれくらい取ってこれば良かったんだろう。依頼書にも数は指定されていないからなぁ。


 そうして僕はグレイとバルとレイカにも手伝って貰い、ただ無心に採取を続けた。多分一時間くらい。ずっとしゃがみ作業だったから腰が痛い……。依頼用の薬草と自分達用の薬草。薬草は調合師って人か、その仕事をやっている人に渡せばお金と引き換えに回復薬を作ってくれるらしい。

 さらに沢山取って一度に多くの薬草を渡せば良いこともあるとか。


 グレイが立ち上がり、作業の終わりを告げる。


「さぁて、そろそろ良いかな。皆んなはいくつずつ取った?」


「僕は百と少し」


「俺は百五十ちょいだな」


「私は八十くらいかしら」


 こんなのただの雑草抜きでは? と思ったけど、一応ちゃんとした回復薬だからねぇ。いざ必要な時に無い困るやつだよね。

 全員で集まれば、グレイの百個を合わせて四百くらいに。


 さてっと僕は帝国に帰ろうとするけど……まさかの此処で【回避】が自動発動する。


 え……? どこから攻撃された? 僕は辺りを見回す。

 んーこの回避能力。どこまで有能なんだろう。僕の斜め後ろ後頭部付近に矢が飛んできていたんだ。この能力無かったら僕即死していたかも。

 しかもこの能力、発動者が『避けた』と判断するまで解ける気配がしない。つまり避けたと判断する必要は無く、その判定を無視して攻撃者を探すことも……可能だって。


 えーっと矢の射線を見れば……あー草むらに隠れてるねえ。大体三十メートルは離れている。この距離を【回避】効果中に移動したらどうなるんだ……?

 僕はクロスボウを構えて草むらにしゃがみ隠れている攻撃者の元まで歩き、思いっきりこめかみを蹴る姿勢に入る。


 時は動き出す。恐らく相手からは撃ったはずの相手が忽然と消えたように見えるだろう。そんな僕に驚く暇も無く、僕は相手のこめかみを蹴り飛ばした。そして僕は叫ぶ。


「攻撃されたぞ!」


 攻撃者は横に吹っ飛びズサーッと地面に身体を擦る。


「え!? 急どうしたんですか! ハクさん!」


 幸い僕が瞬間移動する所は誰も見ていなかったようだ。さてそれはともかく、僕は殺されかけたんだ。尋問する権利はあるだろう。

 僕は吹っ飛んだ攻撃者の元でしゃがみ、質問する。


「君は何者かな?」


「こ、この泥棒めっ! その群生地は俺らが育てた場所なんだ! 今すぐ採取した薬草を返せ!」


 攻撃者の姿はみすぼらしい布切れの服に、良く鍛えられた腹筋を服の隙間から見せつけ、軽い布で作られた短パンとサンダル。

 服装はどうでも良いとして、注目すべきはやけに鍛えられた身体と片手に持つクロスボウかな。


「泥棒? 例え僕たちが泥棒だとして、何故こんなに大量の薬草を育てているかな?」


「んなのてめぇに関係ねぇだろ! 早く薬草を返せ!」


「じゃあ僕たちも君達の薬草なんて知らない。ここの薬草は全部もらっていくよ」


「だぁーっ止めろ止めろ! 俺らには必要なものなんだ! 大量に! 此処で育てる必要もあるんだ!」


 あー「俺ら」ってことは集団か。ここはグレイ達に任せるのが賢明かな。余計なことには首を突っ込まないのが吉だ。


「ふむ。なるほど。後はグレイ達に任せよう。僕はこの地域のことをあまり知らないからね」


「チッ! 捕まってたまるか!」


 攻撃者はしゃがみ込む僕の頭目掛けて一発。ほぼゼロ距離でクロスボウの引き金を引く。

 時が遅くなる。相手がクロスボウの引き金を引いて矢が発射される直前だ。

 僕はゆっくりとクロスボウを頭から横へ退かし、クロスボウそのものをへし折るべく両手で掴んで力を入れる。

 すると時は戻る。


「なっ!?」


「あーごめん。またやり過ぎてしまったようだ。大丈夫だよ。君が良からぬことを考えなければ捕まっても何も問題は無いから」


 僕がクロスボウをへし折れば、それは良い時間稼ぎになった。すぐにグレイ達は僕の声に気が付いて寄ってきた。

 僕はグレイ達に攻撃者の情報を伝えた。


「へー目的は分からないけど、言って大量の回復薬が急遽必要ってことだよね。お前らのアジトが何処にあるかは分からないけど、きっと近いんだろう。でもねぇ、残念ながら此処で薬草を育てるのが間違いなんだよ」


「な、なんだよ! お前らが奪うから場所変えろってのか!」


 バルが睨みながら答える。


「ちげぇよ。ここはノルデン帝国領地内だ。こんなの皇帝様が見たら黙っちゃいないぜぇ? あの人は自分の庭に勝手なことされるのは本当に嫌うからなぁ」


「ひ、ひぃっ!? お願いだ! 今回は見逃してくれ! 今俺が殺されちゃあ、計画が全て狂っちまう!」


 さっきから気になることを漏らす人だなぁ。この人には重要な情報とか任せない方がいいね。

 攻撃者を通報するか否かは全員一致で見逃すことを決めた。

 理由は簡単、通報しなくともノルデン帝国の力なら、巨大な国で無ければ簡単に消せるからだ。


◆◇◆◇数日後◆◇◆◇


 この前の攻撃者の情報が何処から漏れたのか分からないけど、攻撃者の素性は小さな盗賊団だった。

 そしてどこからどんな噂が広まったのか。盗賊団が仮拠点をノルデン帝国領地内に無許可で作っていることが漏洩し、帝国は皇帝の命令により、自慢の軍事力を用いて完膚なきまで盗賊団仮拠点とアジトを壊滅させたという。


 僕は改めてノルデン帝国のヤバさに戦慄した。絶対にどんなに小さなことでも反発してはならないと。心に決めた。

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